1.アベノミクスの正体は金融緩和相場を作ること
これからの数年の株式・債券市況を左右する最大の要因はアベノミクスです。アベノミクスは株式市況を好調にすることで、景気浮揚を図ろうというものです。
中央銀行(日本ならば日銀)がお金の数量を増やすと、その影響を直接受けるのは金融機関、特に銀行です。銀行はお金を貸し出すのが商売ですが、この不況では借り手が増えません。そこで、手元に膨れ上がったお金で金融資産を買うことになります。これが2009年からのNY市場の上昇要因であり、最近の日本の株価上昇要因です。図表1を見れば、日本の株価は最近になって中国、ブラジルといった新興国を抜き、米国に近づく好パフォーマンスになっています。
株価の上昇は経済にも好影響を及ぼします。株価が上がってくると、「世の中の雰囲気が良くなってきた。だったら、今、自動車(家、家電)を買い換えよう」といった動きが出てくるからです。本来ならばあと2,3年してから買い換えるはずだったのを先取りして需要が動きます。本来は「景気が良くなっていくことで株が上がる」のですが、金融緩和相場ではこの逆に、「株が上がることで景気がよくなる」という傾向があります。
2.業績がよくないのに株が上がっている
別の言葉でいえば、金融緩和相場は期待感が先行している相場だともいえます。従来の上昇相場と違い、好業績企業の割合が非常に低いのが特徴です。
図表2は売上10%、利益20%を達成している銘柄数を示しています(注)。2007年までの新興国相場の際は最高で300銘柄に達していましたが、2009年以降は非常に小さな銘柄数で推移しています。
NY市場(SP500、図表3)を見ると、今回の金融緩和相場はIT相場の天井(2000年)、新興国相場の天井(2007年)とほぼ同じ位置に達しています。つまり、現在の相場が携帯電話、パソコンといったIT革命がもたらしたIT相場、中国をはじめとする新興国からの旺盛な需要が生み出した新興国相場と同じようなスケールのものだ、という意味です。今回のビックチェンジは、金融緩和が時代を画するような規模で行われているということです。
しかし、アベノミクスによって本格的な好況が訪れることはありません。
これまで先進国が不況を続けてきたのは、需要に対して供給力がまさってきたからです。つまり、たくさん生産できる力があるのに、買う人がいないというのが不況の最大の原因です。欲しいものは家の中にだいたい揃っているのです。株価上昇で需要の先食いをすることはできますが、それは株価上昇が一段落した後の需要減退を招くだけです。
注:詳しい定義は拙著『伝説のファンドマネージャーが教える株の公式』(ダイヤモンド社)参照
3.ゴールドを保有して資産を守れ
株価がいつ天井を打つかはわかりません。金融緩和が続けば日経平均はさらに高値を抜く可能性もあります。しかし、いったん下げ相場になれば、株価指数が半分程度にまで下がるのが常です。その際最も下がるのは上げ相場の主役だった銘柄です。IT相場で主役だったNASDAQ市場やマイクロソフト社はいまだに高値の6割程度の水準にあります。
金融緩和相場では全てが満遍なく上昇していますので、下がる時は満遍なく下がると考えられます。長い低迷相場が続くことになるでしょう。
金融緩和とは貨幣の数量を増やすことです。別の言い方をするなら、貨幣の価値が下がることです。これに対抗するには、価値の下がらない貨幣、つまり、ゴールドを保有していくことです。ゴールドは安値を切り下げていますので、少しずつ買い増すことで、ゴールドの保有比率を上げていくのが賢い対処法です。株価下落時には大幅な上昇が見込めます。