刺激的なタイトルとは裏腹に、本書の内容は、投資理論に基づいた正攻法のものとなっている。特に、投資理論を正確に習得されている方にとって、本書に書かれていることの多くは、至極当然のことに思われるだろう。しかし、日本の投資教育の現状を考えると、多くの方は、投資理論に精通しているといえない。おそらく一般の方は、本書から有益な点を数多く見出すことができるといえ、特に、投資について漠然と考えていたものの、これまで書籍で投資について勉強したことがない方にとって、本書は価値の高いものといえるだろう。
筆者は、本書において、世界経済の成長にあわせて自分の資産を増やすにあたり、株式投資は有効な投資手法であるととともに、「世界経済の成長」という恩恵を得るためには「国際分散投資」、「長期投資」、「成長重視」の3点が重要と主張している。たしかに、経済学や投資理論に基づけば、筆者の主張は、非常に自然なことである。そういう意味で、本書は、数多くの「投資本」にありがちな、単なる思い込みや一時的な成功体験をもとにした書籍と明確に一線を画している。
本書は、株式投資に関する基本的な知識を説明する部分(第1部)と、著者の主張に基づいた投資手法に関する説明する部分(第2部)で構成されている。これまで株式投資について何も学んだことがない方は第1部から時間をかけて読み込むといいだろう。また、株式投資に関する知識が比較的ある方は、自分の知識を確認するために第1部を俯瞰し、自分にとって馴染みの薄い部分については熟読されるといいだろう。
第2部では、国際分散投資をするうえで必須となるポートフォリオの構築について、ステップ・バイ・ステップ(一歩ずつ、段階的)形式で説明されている。これまで株式投資とは、値上がりが見込まれる銘柄を選び出すことだ、と思っていた方にとって、第2部の内容は新鮮なものとなるだろう。
本書は、投資理論を前提としているだけに難しくなりがちだが、平易な口語体の文章で説明しているため分かりやすい書籍となっている。本書の文章から、著者が、投資に関する経験や知識を、できるだけ多くの読者に伝えようとする姿勢が感じられ、好感が持てる。
残念だったのは、理論的な説明にページの多くが費やされ、著者の主張を実現するための具体的な手順についての記載が十分とはいえない点だ。おそらく著書は、本書を時間を越えた普遍的なものにしたいとの思いが強く、あえて具体的な記載を避けたのだろう。実際、具体的な内容については、「2009年7月時点」などと、利用しているデータの時期を明確にしている。こうした点を考慮すると、本書は、投資リターンをお手軽に得ようとするためのガイドブックではなく、どんな局面でもコンスタントに投資リターンを得るための学習書といえる。