エコノミックヒットマンとは世界中の国々をだまして莫大なカネを掠め取る仕事を生業としている人のこと。彼らは世界銀行や米国国際開発庁などの資金を世界の巨大利権を牛耳っている富裕な一族の懐へと注ぎ込む。現代では質量とも驚くべき次元に到達している。著者は過去にそのエコノミックヒットマンだった。
実は、第一次オイルショック終了直後の1974〜75年当初にかけて、米国は中東、西アジア7カ国と「経済合同委員会」を設立し秘密協定を結んだ。米国の石油資源確保とドルの米国への還流をバーターしたのである。大したことないと思われるかもしれないが、とんでもない。1944年にスタートしたブレトンウッズ体制を一気に強化したことを意味する。
ベトナム戦争の長期化で疲弊していた米国は1971年のニクソンショックでドルと金との兌換を停止し、日欧に通貨切り上げを強いただけでなく、中東産油国の原油決済通貨をドルのみとし、その資金を米欧の指定金融機関にプールさせる密約を結んだのである。このプールされた原油代金で米国債を購入し、それを担保に欧州市場でドル建て融資や当市が飛躍的に発展していったのである。
こうした事実を知っている市場関係者はほとんどいない。著者は自らがそのためのエコノミックヒットマンの一人だったことを告白している。21世紀は米国の覇権が終了とか、無秩序なドルの大暴落(フリーフォール)が近いといった見通しは同書を読むだけで吹き飛んでしまう。
現在、米国はアフガン戦争9年目に突入し財政赤字も年間1兆4千億ドルまで膨張しているが、軍産複合体はますます超え太り世界中にエージェントを広げている。コロンビア、メキシコ、ミャンマー、中央アジアのきな臭いニュースの裏でエコノミックヒットマンが暗躍していることは間違いない。同書は本人の経験を記したもので、米国の凄まじさに戦慄を覚える。世界の政治経済を展望する上でも押さえておきたい一冊。