ここまで150名以上の運用・投資のプロの方たちが、この本をどなたも推奨されていらっしゃらないのが不思議に思われますが、本書は、運用に関する古典的名著です。
筆者のバートン・マルキール氏は、アメリカ・イエール大学教授でフォード政権下では経済諮問委員を務めた経済学の泰斗であり、同氏が一般投資家向けに書いたこの本は、アメリカでは150万部以上売れるロングセラーとなっています。
著者の主張を大まかに要約しますと、「市場は予測不可能であり、あらゆる情報を瞬時に株価に織り込んでいく効率性があることから、大多数の投資家にとっての最善の運用手法とは、市場に勝とうとすることではなく、市場に追随する運用――具体的には、ETFやインデックス型の投信の購入――を行うことである」ということになります。
資産運用を行っている多くの方は、市場平均に打ち勝つことを目的に、銘柄を選定されたり、テクニカル分析を行ったりされていることと思います。そうした方々にとっては、「大多数のファンドマネージャーは市場平均に負けている」「単に、市場連動型の手数料の安い運用商品をバイ・アンド・ホールドすべきだ」という同氏の指摘は、感情的にも受け入れがたいものかもしれません。
しかし、わたしは、資産運用を行おうとする人は誰でも、客観的な事実に基づく同氏の著作を一度は冷静に読み、自らの運用スタンスを見つめ直してみる必要があると考えます。
この著作の難点をあえて挙げるとすれば、テクニカル分析に対する批判がやや稚拙であることや、市場の効率性に対して妄信的であると感じる部分があること、文章が長く日本人には読みにくい部分があることなどです。また、参考図書の出典の記載がないことにも不満が残ります。
こうしたマイナス点を考慮したとしても、本書は、個人投資家向けの第一級の教科書であることは間違いありません。