本書は、デリバティブトレーダーおよび大学教授という肩書を持つ著者の考え方を綴ったエッセイであり、相場への取引手法などは一切書いていない。
私の手元にある(英語の)ペーパーバック版には、副題として「The Impact of the Highly Improbable:非常にありそうもないことの衝撃」とある、まさにこれが不確実性(に起因するリスク)の本質ということであろう。
実は個人的に原文で読むつもりで購入し、ある程度読んでいたのだが、とても難しい(というか、著者に失礼だが、かなり変わった英語でとても疲れる)本で、途中であきらめてしまった。
私にとっては、オプション関係の論文でもお世話になっている著者であり、待望の日本語訳である。
ブラック・スワンとは、オーストラリアで発見された「黒鳥」で、白鳥といえば「白い」と思われていた時代の常識を、たった一つの事例がひっくり返したことから、想像もつかぬ衝撃的な(あるいは、確実と思われたことが起きないような)事象のことを表している。
私自身、1987年以降、様々なオプション取引を行う中で、突然の出来事に出くわした経験を持ち、また業界でも珍しいくらいのガンマロングトレーダーであったため、とても興味深く読めた。
内容としては、筆者が非常に気持ちよく自身の意見を表明している部分は、とても爽快で、基本的にガンマロングプレーヤーである私も同意することも多いが、(下巻では)時に辛らつにオプション研究者や経済学者、数学者たちを批判しており、異論や反論もあると思う(私もここまで言うか...と思うこともしばしばあった)。
ただし、フロントで特にオプション・トレーディングを行っている者は、謙虚に読んでいくと、それなりに吸収できる考え方も多くあると思われる(少なくとも、個人的にはとても参考になった)。
さらには、個人法人を問わず、投資家として市場に相対しているものにとって、市場と向かい合う態度について、十分参考になる意見が多い。
本書は難点もある。結構だらだら書いている部分が多く、忍耐力が必要な部分が多々あるうえ、トレーディングやリスク管理について具体的に何か解説したりしているものではなく、まさに筆者が言いたいこと、思っていることを楽しく語っている本である。
しかしながら、謙虚に、忍耐力(おそらく必要)をもって読んでいると、10ページのうち 2,3 行程度は参考になる意見がちりばめられている(あてずっぽうではなく、私が付けた付箋の数から計算している。今、あてずっぽうに付箋の所を開いたら「信じることの優先順位は、確からしさの順ではなく、それで降りかかるかもしれない被害の順につけるのだ」とあった)
またおせっかいな提案だが、本書の内容が面白いと思ったら、原文で読むのもお勧めする。原文のみでは、とても読む気になれないが、訳が出たので、英語での表現をたまに見ながら読んだが、より著者の言いたいことが感じられ愉快な経験だった。
ひとつだけ気になるのは、マンデルブロやカール・ポパー(私は両者とも好きだ)は非常に好意的に評価される一方、かなり著名な数学者や経済学者(私の好きな学者も多く登場)の多くが、辛らつな批判をされているので、そのあたりは寛容になる必要がある。