日本がバブル経済に翻弄されたとき、そのバブルが崩壊して長い不況に入ったとき、そこから脱却しようとしたとき、日銀の金融政策は批判を受けた。サブプライムローンの問題の表面化をきっかけに世界を襲った金融危機の発生に際しては、FRBの金融政策が不適切だったと非難された。
金融危機への対応として各国の中央銀行は、非伝統的な金融政策を実施した。量的緩和政策などだ。それらは、危機が経済を完全に破壊する直前で効果を発揮した。危機は山を越えたように見えるが、またもう一つの山が待っているかもしれない。そうなれば中央銀行にはどんな金融政策が残されているのか。あるいは危機は収束に向かい、これまでの非常時の金融政策は段階的に解除され、通常の状態に戻るのか。いわゆる出口戦略に取り掛かるとしたらどのようなタイミングで実行されるのか。各国の足並みがそろうのか。
こうした金融政策の行方次第で、債券市場も、株式市場も、為替市場も大きな影響を受ける。
このように市場で決定的な影響を与える金融政策の基本的な考え方や仕組み、そして実際の政策を詳しく説き明かしたのが本書だ。著者の白川氏は現日銀総裁だが、この本は総裁就任以前に書かれた。
特に量的緩和政策は日本が01年から06年まで採用した政策であり、現在英国やスイスで採用している。米国もFRBのバーナンキ議長は量的金融緩和政策と称していないが、実質的には量的緩和政策とも言える。
日本でも再び量的緩和政策を求める声が高まり、日銀は広義の量的緩和政策を採用した。
本書で述べているが、著者は、量的緩和政策の評価について、金融システムの安定には効果があったが、マクロ経済への効果は不明確と指摘している。今回、前回と同様な量的緩和政策を採らなかったのは、こうした評価によるものと思われる。それでも量的緩和政策と言わないと、デフレ脱却を金融政策に求める政府が納得しないので「広義の」と付けたのだろう。
市場で売買に携わる者は、不断の情報のフローとその解釈で追われて精一杯だが、たまには時間をやりくりして、じっくり金融政策を考えてはどうだろう。本書にはそれだけの価値が十分にある。普段気づかなかったことや思わぬヒントを見つけ、ほくそ笑むに違いない。