必勝本の類として本書を手にされるのであれば困難が付きまといます。しかしながら、分析手法やロジック解説本は無数にありますが、マネジメント部分に焦点を当てた書籍は数少なく、著者の「オプティマルf」を始めとする「レバレッジスペースモデル」によるポートフォリオ理論はマネジメント部分が欠けていたトレーダーにとっては感銘あるものになるはずです。
本書を読む為には数学知識が必須ではありますが、第1章・2章が基本編となっているため、それを補完する意味で、金融系の確率・統計解説書が1冊あれば十分でしょう。それでも足りない部分はネット検索を活用すればポートフォリオ理論以外は把握可能です。
キャッチコピーに「トントンの手法を儲かる戦略に変身させる」と謳ってはいますが、真の前提としては「正の期待値を持つロジック」を手中に収めていることが求められます。「正の期待値を持つロジック」があって初めて、「オプティマルf」を活用しポジションサイジングを行う意義があると解釈すべきでしょう。
本書は「オプティマルf」の概念を熱心かつ良心的に説明することに力を注いでいると感じますが、真に注目すべきは、パフォーマンスに対する「幾何平均」と「オプティマルf」を活用することで、トレーディングシステムの比較対照も可能になる点と、「レバレッジスペースモデル」の概念から、トレーディングシステムのパフォーマンスの幾何的成長度合いの立ち位置が把握可能という2点にあります。
この2点は文中では大きくは強調されていませんが、先の概念が「あなたは、この結果を受けてどうマネジメントしたい?」と問い掛けてくる部分になります。最近は「読めば終わり」「こうしたら儲かる」という内容の書籍が多い中、「ではどうしようか?」と考えさせられる書籍は重宝したいところです。
では、全てを肯定的な視点で読めるかといいますと答えは「否」でしょう。
「オプティマルf」は過去の最大損失に依存するものであり、基となるロジックのバックテスト期間がロジックを十分に吟味するに至らない場合は、最大損失の更新時にリスクが高いトレードが発生することにもなります。
この点を考慮してか、「オプティマルf」の値の更新頻度の重要性や、f値の最適値、もしくは最適値の左側にある数値群を選択することや、資金をアクティブ・ノンアクティブに分割することを薦めています。これら補佐的な対処は、「オプティマルf」が「資産の防衛」と「資産の幾何的成長」を完全に説明できるのであれば必要が無いとも考えられます。「資産の防衛」と「資産の幾何的成長」はトレーディングシステム構築経験者であれば、一見、二律背反に近いものと感じ取れるでしょう。但し、理想ではあります。
最後に、本書で扱っている概念のメリットからデメリットを差し引いても、パフォーマンスから得られる情報をトレーディングにフィードバックするというマネジメント技術は、魅力的かつ実用的な研究対象であることに変わりはありません。
著者の真意は、本書を「マネジメントとはこうあるべきだ!」という指南書というよりも、「様々なマネジメント手法を提供します、どうぞ熟考して自分なりのマネジメントを構築してみてください」という研究心を揺さぶるという、理論書ながら「熱き思いを伝えたい」というメッセージを送ることにあるのかもしれません。