我々は毎日、「市場はすでに織り込み済み」とか「市場の反応が注目される」など
の表現をよく目にし、ほとんど無意識に使っている。しかし、この”市場”とはそも
そも一体何者なのだろうか?「市場が信認する」とか、「市場が拒否する」とは一体
どういうことなのか?
言うまでもなく”市場”とは、「財・サービスの交換が一定の価格を通じて行われ
る場」のことだが、経済社会学者の富永健一はこれを、「経済的交換のネットワー
ク」とした上で、社会としての要件をほぼ満たしつつ、家族や企業ほどには組織化さ
れていない”準社会”であると規定している(『社会学講義』中公新書)。では、そ
の準社会が発している「声」とは一体誰の言葉のことなのか?
本書は、”市場”が発するとされている「声」をある種のフィクションとして捉え
直し、この形成者として「政府」「メディア」「市場参加者」を次々と俎上に上げて
いく。その過程で著者は、日本の株式市場のみならず経済システム全体が抱える問題
をあぶり出し、最終的には政府と市場の関係にふれ、そのあるべき姿にまで言及して
いく。
日常的に市場と接触していればいるほど、「市場の声」とされているものを「ア・
プリオリな存在」として受け入れがちだ。しかし、時の内閣が世論調査による
支持率と同等かそれ以上に、平均株価という形での「市場の信認」に気をもむ現在、
肝心の「声」がどのように形成されているのかというメカニズムを理解することは、
株式市場の見方を根本から考え直す良い機会となるのではないだろうか。
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