こんにちは、鈴木一之です。
早いもので今年も年の瀬がやってきました。最近は異常気象ばかりで、春夏秋
冬、四季折々の境界がわかりにくくなっていますが、やはり街頭にクリスマス
の飾りつけがあふれてくると、今年ももうすぐ終わりなんだなあという思いに
とらわれます。皆さまにとって今年はどのような1年でしたか。
この稿を記しているのが12月第1週の末。すでに忘年会シーズンはスタートし
ていることですし、少し早い気もしますが今年の株式市場を振り返ってみるこ
とにしましょう。日経平均の動きで見てみると、昨年の大発会から直近の値ま
でで、日経平均は -7.4%の下落となっています。2月末に「上海ショック」
なる急落はあったものの、7月には1万8000円台を回復する場面もあって、年
前半はまだしっかりしていました。
しかし7月以降、世界のマネー市場はサブプライムローン問題による信用収縮
の嵐に見舞われ、投機資金のリスクテイク余地が大幅に縮小してしまいました。
7月以降は日経平均は激しく上下に揺さぶられる展開が多くなり、それまでの
上昇トレンドが崩れ、運用担当者の苦悶の日々が始まりました。
今年1年は7月を分水嶺として、好調な前半戦と苦悶の後半戦にはっきりと分
かれてしまいます。次に東証1部のセクター別の騰落率を調べますが、ここで
は今年1年を前半と後半に分けて考えてみます。基点は昨年の大納会、終点は
7月末値と12月第1週の終値です。
(ア)通年 (2006年大納会→2007年12月第1週)
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【上昇ベスト5】
(1)その他製品(+44.3%)
(2)海運(+25.0%)
(3)鉱業(+20.1%)
(4)空運(+13.4%)
(5)卸売(+11.2%)
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【下落ワースト5】
(1)その他金融(-30.3%)
(2)ゴム(-18.7%)
(3)銀行(-18.5%)
(4)金属製品(-18.0%)
(5)建設(-17.7%)
(日経平均は-7.4%)
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上昇ベスト5のトップは、爆発的な売上成長を示した任天堂を擁する「その他
製品」でした。今年は任天堂で始まり任天堂で終わった年、と締めくくること
もできるでしょう。それに続いて、海運、鉱業、卸売がランクアップされてい
ます。これに鉄鋼、非鉄を加えた新興国関連の素材、エネルギー銘柄の上昇も
強く印象に残った年となりました。
しかし今一歩、踏み込んで株式市場の動きを追跡すると、年前半と後半とでは
様相がかなり異なります。日経平均や世界のマネー市場が順調な拡大を続けて
いたのは7月くらいまでで、それ以降はサブプライムローン問題に関する不安
心理で息苦しくなるほどでした。年の前半と後半とでは、先ほどの騰落ランキ
ングも様相がかなり異なってきます。そこで次にパフォーマンスの計算期間を、
年前半と後半に区分けしてみます。
(イ)年前半(2006年大納会→2007年7月末)
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【上昇ベスト5】
(1)海運(+58.4%)
(2)卸売(+34.6%)
(3)その他製品(+34.3%)
(4)鉄鋼(+29.0%)
(5)石油(+27.6%) |
【下落ワースト5】
(1)その他金融(-16.0%)
(2)電力ガス(-15.2%)
(3)サービス(-11.1%)
(4)銀行(-9.3%)
(5)小売(-9.3%)
(日経平均は+0.1%)
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年前半の値上がりセクターには、やはり任天堂の「その他製品」が第3位に食い込んでいます。しかし任天堂を除けば、海運、卸売(=商社)、鉄鋼、石油という資源・エネルギーや素材セクターにパフォーマンス上位はほぼ独占されることがわかります。反対に値下がり業種は、ワースト5のすべてが内需セクターで埋められてしまいました。このように今年の相場は、少なくとも年前半までは非常にはっきりと、外需セクターの優位性、内需セクターの劣勢という構図が強化されたことが見てとれます。
そしてさらに年後半は、これらのランキング上位・下位の顔ぶれがもう一度大きく変わります。
(ウ)年後半(2007年7月末→2007年12月第1週)
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【上昇ベスト5】
(1)その他製品(+7.5%)
(2)電力ガス(+6.5%)
(3)空運(+4.7%)
(4)情報・通信(+4.2%)
(5)食料品(+2.2%) |
【下落ワースト5】
(1)鉄鋼(-25.7%)
(2)非鉄(-21.5%)
(3)海運(-21.1%)
(4)石油(-20.1%)
(5)機械(-18.1%)
(日経平均は-7.5%)
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8月以降、日経平均は大きく下落するような厳しい相場環境に変わりました。株価の急落は、米国の住宅バブル崩壊が震源地となって世界的な信用収縮が起こり、それが世界の好景気を終わらせるという不安心理が映し出されています。この状況下で値上がりを維持できたのは、任天堂のような類まれなる競争力を持った企業か、あるいは景気感応度の低いディフェンシブセクター(電力ガス、食料品)に限られています。
下落の度合いの大きなセクターも一目瞭然です。鉄鋼、非鉄、海運、石油、機械という景気への感応度の高い業種、年前半の上昇相場で華々しく買い進まれた銘柄ほど大きく売られました。
鉄鋼、非鉄、海運、石油などは典型的なシクリカル(循環的な)業種です。日本では古くから「景気敏感株」と呼ばれるように、好景気で業績が伸び、不景気で落ち込むという動きを宿命として繰り返します。ここ数年、中国やインドの高成長に乗って売上や利益が大きく伸び、それによって株価も目をみはるような上昇を遂げました。
しかしそのような驚愕の大変貌も、シクリカルの場合と成長株の場合とでは決定的に性質が異なります。成長株は自らの力で変貌を遂げます。時代の要請を受けて、あるいは時代そのものを自ら切り拓いて、偉大なる成長を成し遂げます。繁栄すればするほど新たな挑戦者が現れて、生存競争は一段と激しくなります。その激烈な競争をくぐり抜けて成功を収めたものだけが「成長株」の称号を与えられるのです。典型的な例が80〜90年代のマイクロソフトとインテルでしょう。
これに対してシクリカル業種は、時代を背負うというほどのものではなく、景気に寄り添う形で他律的に変貌がもたらされます。不景気のサイクルにあっては生き残りの競争が激しくなりますが、そこで生き残ることができさえすれば、次の好景気のサイクルでは同業者はみな等しく業容拡大の恩恵にあずかることができます。そしてまた景気が下向きになれば、それまでの栄華はたちどころに消え去ります。
シクリカル業種の株価の動きは、景気の動きに対して一歩先んじたような軌跡をたどります。株式市場では上昇・下落どちらの局面でも、シクリカルセクターはパイロットランプ的な役割を果たすのです。そうであるならば、子年の2008年相場は、前年の後半からシクリカルセクターの株価が大きく下落した、という事実を引きずりながら新年を迎えることになります。この事実を無視することはできません。ひょっとしたらそこでは、資産防衛のためのヘッジ売り戦略が必要とされる機会が増えることになるかもしれません。
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