■目次
監修者まえがき
序文 バラスト
第1章 株主層の台頭
1.トリクルダウン税制
2.センチメントの変化
3.インフラストラクチャーの劣化
4.ヘルスケアの削減
5.労働者は発言力を失っている
6.LBOのブーム
7.生産性は上昇し、報酬は伸び悩む
8.所得格差
9.打ちのめされたIRS
10.オフショアの急増
11.株式市場への参加
第2章 われわれが作った世界
12.生産性革命
13.何十億もの人々が苦労して貧困から脱している
14.健康は財産
15.新世界秩序
16.移動の自由
17.消費者経済の赤血球
18.デジタル時代
19.技術の進歩は加速する
20.アメリカの研究機関=天才工場
21.人道支援
第3章 イノベーター崇拝
22.コミュニティー組織に背を向ける
23.世界で最も裕福な国の水道水の安全度
24.民営化されるR&D=民営化される進歩
25.大学は中間層への加入条件となっている
26.イノベーターたちによるおぞましいイノベーター崇拝
27.パワーゲーム
28.富の固定化
29.1兆ドル企業になるのがこれほど簡単だったことはない
30.企業の広報担当幹部こそ資本主義におけるMDMAディーラー
31.ワシントンは第2の本社
32.見通し
第4章 ハンガーゲーム
33.大きな乖離
34.トップは豊か
35.偏った世界から悲惨な世界へ
36.外来種
37.数十年遅れの最低賃金
38.われわれの優先事項は何?
39.金融化と資産のインフレ
40.資産インフレは住宅を直撃する
41.アメリカの繁栄に対する攻撃
42.コロナのもう1つの罪
43.アメリカの医療制度はあきれるほど非効率
44.アメリカンドリームから目を覚まそう
第5章 アテンションエコノミー
45.われわれはみんなスマホ依存症
46.デジタル広告
47.ニュースの減少
48.刺激を与える
49.ウソつき、ウソつき
50.「政治的」検閲
51.フェイクニュース
52.メディアが犯罪に関する誤解を助長
53.交際状況
第6章 砂上の楼閣
54.過去最低の婚姻率
55.女性は男性の稼ぐ能力を重視する
56.大学進学に占める男性の割合は過去最低
57.オンラインデートアプリは地球上のどこよりも不公平
58.政治的分裂が社会的分裂になる
59.一人暮らしをしない
60.人口増加率は大恐慌期の水準まで低下
61.生まれながらにして平等である
62.大量殺人はもっぱら男性の犯罪
63.政府への信頼は長期的に低下
64.古くからの財産と古くからある問題
65.未来に投資をする者たちの過去は酷似
第7章 脅威
66.アメリカはまだタイトルを保持している
67.米ドル支配
68.中国は最も人気の貿易相手国としての地位をアメリカから奪っている
69.アメリカの軍事支出で買えるものは少ない
70.軍事支出と有効性は必ずしも同じではない
71.中国がリードする軍用ドローン
72.アメリカの予算配分はアメリカの脅威と整合しているのか
73.世界で最も重要なブランドが衰退している
74.アメリカはもはや世界の研究所ではない
75.クリーンエネルギーのシルクロードは中国を通っている
76.資本主義の頂点捕食者の産卵場所
第8章 不安定であることの明るい側面
77.危機が成長の引き金となる
78.期待をリセットする
79.急増するスタートアップ企業
80.移民は独創的な起業家
81.庇護を求める
82.銀行と取引する
第9章 望むべき未来
83.繁栄への道を印刷する
84.現金に溺れる
85.社会的なセーフティーネットに投資
86.息苦しいセーフティーネット
87.メタディストピア
88.高速な未来
89.友だちのいない孤独な場所
第10章 われわれは何をなすべきか
90.税法を簡略にせよ
91.規制制度を再構築せよ
92.抑止力の公式を復旧せよ
93.通信品位法230条を改正せよ
94.犯罪者の収監を再考せよ
95.1回かぎりの富裕税を導入せよ
96.原子力をリブランドせよ
97.子供とその家族を支援せよ
98.高等教育を改革せよ
99.別の方法でも社会的地位を高められるようにせよ
100.国への奉仕に投資せよ
結論
謝辞
注
■監修者まえがき
本書は、数多くの企業の設立を手掛けた起業家で、ニューヨーク大学の教授でもあるスコット・ギャロウェイの著した“Adrift : America in 100 Charts”の邦訳である。ギャロウェイには『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(東洋経済新報社)など、ベストセラーとなった著作があり、それらが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック禍以降の世界の急速な変化を理解するのに重要な示唆を与えたことから、すでに名前を知っている読者も少なくないことだろう。
本書は、客観的データから導いた大量のチャートやグラフによってアメリカ社会の変化を浮き彫りにしたものである。およそ社会科学上の未来予測においては、その系の複雑さゆえ理論からの演繹や定量的モデルはほとんど用をなさない。わずかに依るべきは、事実と経験、そして専門的知識を基にした考察のみであり、ゆえに、かつてランド研究所が開発したデルファイ法のように、慎重に体系化されたメソッドだけが学究や機関の場で使われてきたのである。
一方で、現代の情報化社会の大きな問題の1つは、多くの自称専門家が無邪気にウソをバラまき、メディアがフェイクニュースを大量に流すことである。それらの多くは何らかの目的で恣意的に行われているものだが、これからは自然言語処理系の人工知能(AI)の台頭がその傾向を意図せず加速していくことになるだろう。
まだ市井にインターネットもなかったころ、私が大学を出てアメリカの銀行に入社したときに、上席者から「新聞を読むな、ウソが書いてあるから。安易に権威を信じるな、分別のある人間は饒舌には語らない。まずは、一次資料と公的データだけを使い自分の頭で考えろ」と命じられたことを思い出す。その銀行には、それを可能にするためにビルのフロアぶち抜きの大きな資料室が用意されていた。
当時と比べてもより混沌とした現代の世界で、私たちは個々人のレベルにおいても、何が事実で何が偽りなのかを見極める目と技法を持たなければならない。それはけっして簡単なことではないが、本書はできるかぎり加工しない形で私たちに事実(と筆者による簡単な解説)を見せ、アメリカ社会の前途を考える重要なヒントを与えている。残された課題は、私たちがそれらをどのように解釈し、どのようにこれから生かすかということだけである。(続きを読む)
■序文 バラスト
データが語ることは複雑ではない。それは、アメリカは未完成ながら強力な中間層に資金を投じているときこそ、その理想に最も大きく近づき、最もアメリカらしくなるということだ。それこそが私の経済一般理論だ。何ゆえにそう確信しているのか。データだ。データがそう語っているのだ。
その物語は80年ほど前に始まる。1945年夏、人類の長きにわたる暴力行為の歴史でも最も破壊的な出来事が終わりを迎えた。4月にはナチスドイツが崩壊し、8月にはアメリカによる2発の原爆投下を受けて大日本帝国が降伏した。戦いで荒廃した国々の再建には一世代かかるだろうと思われた。だが、アメリカはまったく異なる問題に直面していた。
アメリカの国土では戦闘はほとんど行われなかったが、戦争はアメリカ経済を変えてしまった。自動車業界は戦車や軍用機を建造すべく設備を一新した。海運や国内運送は武器の製造と輸送を支援するために再編された。割り当てによってガソリンから石鹸に至るまで物品の消費は制限された。1945年、アメリカのGDP(国内総生産)の40%が戦争努力に向けられていた(今日の軍事支出はGDPの3.7%だ)。戦前は深刻な不況下にあったアメリカは戦時経済体制に突入することで生き返った。ルーズベルトの言う「民主主義の武器庫」である。
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