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グレアムからの手紙――賢明なる投資家になるための教え

 本書は、グレアムが雑誌や専門誌に投稿した論文(1932年〜1977年)を、4部構成で内容別に掲載している。

 本書は、簡単に読めるものではない、というのが、第1の感想である。というのも、実際に読む私たち(日本に住む現在の日本人)にとっては、アメリカという遠い隣国の半世紀も前の論文に、なじみがあるわけがないからだ。まさに「時空」を超えた論文であるために、論述の背景が実に掴み難く、読むの非常に骨が折れるのである。

 たとえば、第16章の「1951年 戦時下の経済と株式価値」では、戦時下(朝鮮戦争)の市場動向や、統制経済下での株式投資の是非を述べている。朝鮮戦争という、わたしたちの歴史知識で追えそうな時代の論文でさえ、内容や趣旨は把握できても、本当にしっくり来ない。

 少なくとも、これまでのグレアムの著作である、「證券分析」や「賢明なる投資家」を読んでいないと、何が何やらになってしまうだろう。従って、本書は上記代表的著作を読了した人向けの一冊である。

 ところで、本書・前書きに、バフェットのグレアム評がある。彼は、グレアムを「とてつもなく、合理的」と述べているが、本書の節々で、彼の「合理さ」に遭遇することになる。やはり、グレアムは、合理的なのである。逆を言えば、不合理さを嫌うのである。狂奔で不合理な「株価」を相手にしないのも、とてもよくわかる。端的に現れているのが、初期の論文で、簿価をはるかに下回る株価で取引されている企業の“価値”への考察である。本書に掲載されている諸論文の節々に、バフェットの言う合理性の端緒を見出すことだろう。

 グレアムの著書に共通していることだが、つくづく、バフェットはグレアムの弟子だなあ、と思うのである。師匠譲りと表現するのも陳腐だが、グレアムのテキストの合間に、バフェットの顔がちらつくのは、私だけだろうか。

 さて、本書は、これこれこうするのがよい、という投資方法やノウハウを供給するものではない。本書の役割は、投資において、賢明な態度を取るとは、どういうことなのかという、上質な“歴史的サンプル”を得ることである。もちろんそのサンプルとは、グレアムの投資態度である。株式投資の手法や銘柄分析は変わる。グレアム自身も、初期の個別銘柄分析から、ポートフォリオ管理へ力点を変えている。しかし、変わらないもの・変わりにくいもの・変えずにおくものもある。それら、上質のエッセンスを掴むことが、投資から適切なリターンを“獲得し続ける”妙味であるように思われる。

 探求的で理知的な人には、論文の展開の中で浮かし彫りになっていく、グレアムの合理性に触れて、思い考えることがあるに違いない。この意味で、本書には、触媒的な役割があるように思われる。個人的には、「投資における数式は、いつでも鬼門だよな」「数式の顔をした投機は昔からだな」「考えさせないために数式はある」「ほら、ダメはダメだろう」であった。

 読み方としては、斜め読みでいいので、グレアムの諸論文をざっと触れていくのがいい。先も言ったように、本書は「時空を超えた論文の集まり」であるので、一読してすぐわかる性質のものではない。軽く目を通していって、自身の琴線に触れるものを、まずは「探す」ことから始めたらよいだろう。(私自身、その口である。)なお、読みこなすに当たっては、証券投資を含めた教養的なものが求められるので、ピンと来る論文は、読み手によってかなり異なるだろう。

 わたしが面白かったのは、第19章「証券分析の未来(1963年)」の、証券アナリストの性ともいうべき職業事情(バリュー的なことをしていたら仕事がなくなる)や、第20章「株式の未来(1974年)」の絵画や商品などの、収益を生まない資産対象と債券投資との比較、第23章「証券アナリストにとっての重要な意義(1974年)」の“なんら損はない”記述であった。

 ざっと読んでも、何が何やらという方は、第4章のインタビューや講義を書き起こした章から読んでいけば、読む端緒を掴むことができるだろう。面白い“グレアムらしさ”に遭遇することになる。『質問者:古典の引用をたくさんされてますね。→グレアム:はい、古典についての知識を披露をする純粋な虚栄心によるものです。』等々、クスっともしないボケを真顔でする人は、信じるに足ると私には思われる。

 最後に、グレアムの慧眼さや先見性を称える賞賛の声は多々あるが、個人的には、通常の分別を持って、ごまかしや無知を避けたなら、そうなるよなと思う。しかし、そういう「賢明さ」をマーケットを前にして、いかに発揮し続けられるかどうかである。そこにグレアムの偉大さとでもいうべき為人があるように思われるのである。

初心者投資 管理人くらげ様


バフェットの「師匠」であり、証券分析の父と言われるグレアムの様々な時期に書かれた内容やインタビューを集めた書籍。

率直に言って読みやすいとは言いかねる。 というのは、まずは洋書の翻訳であること。翻訳物の書籍はどうしても隔靴掻痒感がぬぐいきれない場合が多い。

当然、登場するのは米国市場であり、米国の銘柄を中心としている。しかも、時代はかなり古い。なので、具体例からのイメージというのはとらえにくい場合がある。

次に、本書は一冊の書籍としてまとめられたものではなく、様々な時代に書かれた内容をまとめたものであるということ。

そして、その内容が文章表現も含めて全般に「堅い」。これは、翻訳の問題というよりも、そもそも、元々の内容がそうしたものだったのだろう。妙な「超訳」をしてもらうよりも、それなりに原文に忠実に翻訳してもらう方がいいといえばいいので、しょうがないところもある。

本書の内容をすべて正確に理解するのは難しかった。

が、本書の中に取りたあげられた具体例を現在のそれに置き換えてみたらどうだろうか。 となると、まさに現代でもピッタリそのままあてはまるような事例があり、本書の内容には「古さ」はほとんど感じられなかったりする場合がある。それは、つまりは、普遍的な本質に迫っているということだろう。

今の時期、グレアムの言う割安株、バリュー投資、安全域などについて、自分の投資スタンスと合わせて、再考してみることは有益かと思う。それは、別に「今の時期」に限ったことでないかもしれないが。

かみしめつつ、本書の本質を学び取りたいものだと思う。

ふしみん 50代 個人投資家


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