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第14回 「繰延税金資産」の恐怖

2007/11/09

11月7日、アメリカの自動車大手GM(ゼネラル・モーターズ)は、7−9月 期の最終赤字が日本円で4兆5千億円になったことを発表しました。これがき っかけとなり、7日のアメリカ株式市場は大きく下落、その余波は11月8日の 日本市場やアジアの各株式市場にも波及しました。

GMが大赤字となった一番の原因が、「繰延税金資産(くりのべぜいきんしさ ん)」の取り崩しによるものです。実は、この「繰延税金資産」が、企業の赤 字決算を増幅させる主犯格なのです。

繰延税金資産を正確に説明しようとしますと、非常に長く、かつ難解な文章に なってしまいますのでここでは割愛させていただきますが、簡単に言えば、 「将来支払うべき税金を現時点で前払いしている金額」を意味します。それだ け将来支払うべき税金が少なく済みますので、これを資産として認めているの です。そして、繰延税金資産を資産として計上すると同時に、利益が同額だけ 増加します。利益が増加するということは、純資産(株主資本)も増加します。

さて、この「繰延税金資産」、実は資産といっても、その資産性は非常に心も とないものなのです。
繰延税金資産として計上されている金額は、すでに税金を前払いしているため に、将来支払う税金が少なくなると見込まれる金額です。ところが、将来支払 う税金が少なくなるという恩恵を企業が受けるためには、繰延税金資産に計上 されている金額に見合っただけの税務上の所得(=税金計算上の利益)を将来 得ることが必要なのです。

いくら将来の税金を減らす効果があるといっても、それは実際に、将来十分な 所得をあげて税金が生じないと意味がありません。仮に将来赤字でそもそも税 金が発生しないとなれば、「税金を減らす」こと自体が不可能になってしまい ます。そうなれば、繰延税金資産をそのまま計上している意味がなくなり、取 り崩しにより今度は利益の減少(または赤字の拡大)を招くことになるわけで す。

先ほどもご説明したように、繰延税金資産を計上するとそれだけ利益が増加( または赤字が減少)します。したがって、多くの企業は、多少無理してでも強 気の業績予測をたてて、「将来、支払う税金が少なくなる恩恵を受けるだけの 十分な利益を確保できる」という前提で繰延税金資産を計上しているのです。 そうすれば、見かけ上、決算を良く見せることができるからです。

しかし、業績が悪化して、その前提が崩れてしまったとしたら・・・業績の悪 化による利益の減少や赤字の発生のみならず、計上していた繰延税金資産を取 り崩すことによる費用の増加も加わり、今回のGMのように多額の赤字決算を 余儀なくされてしまいます。

日本でも、2003年にりそな銀行が繰延税金資産の取り崩しによる自己資本比率 の低下から公的資金注入を余儀なくされましたし、JALの2007年3月期決算 では544億円もの繰延税金資産取り崩しの影響で、従来の30億円の黒字予測が一 転して162億円の最終赤字になってしまいました。

また、いま話題のニチアスも、繰延税金資産の計上額の見直しなどに時間がか かるために、11月12日に予定していた決算発表を11月下旬に延期することにな りました。

もし、業績が低調で、利益もそれほどあがっていないにも関わらず、多額の繰 延税金資産が計上されている企業を見つけたとしたら要注意です。その企業の 業績がひとたび急速に悪化すれば、繰延税金資産の取り崩しにより大赤字の決 算となる可能性が高いでしょう。

繰延税金資産は、まさに、企業の「業績悪化」を引き金とした時限爆弾なのです。


足立武志
公認会計士、税理士、ファイナンシャル・プランナー(AFP)
株式会社マーケットチェッカー取締役

1975年生まれ 神奈川県出身 一橋大学商学部経営学科卒業。資産運用に精通した公認会計士として、執筆活 動、セミナー講師等を通じ、個人投資家が資産運用で成功するために必要な知識や情報の提供に努めている。

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