『バフェット』を知らない人でも、読めばひいきファンとなる、というのがわたしの感想です。
全米2位の資産家だとか投資で富を築いたとか、バフェットにまつわる履歴や逸話を知らなくても、彼の記述のわかりやすさと腑に落ちやすさ、そして、いたる所にちりばめられたユーモアに接すれば、彼がとても“気になる人”になるように思われるのです。
ちなみに、本書は、バフェットが経営するバークシャー・ハサウェイ社の年次報告書(1979年から2011年まで)から、投資や経営のエッセンスを抜粋し、まとめたものです。
作者は“英知”が結集されていると太鼓判を押していますが、確かに、企業運営の基本や企業評価、投資対象の選択、資本の活用法など広範囲にわたって、新しく見えてくるものがたくさんあります。
たとえば、馬鹿げた額の企業買収は、バフェットの優れた観察眼と分析眼を通してみれば、「だってみんな持ってんだもん」とか、トップのワイルドさの証明意欲とか、無知に付け込む輩とか、非理性的な原因に収れんしていくことに、唖然とするはずです。そのほか、CEOの「資本配分についての経験不足」については、企業が大赤字を出すメカニズムについて、理解の一端となるでしょう。
彼の鋭い指摘は、新聞ネット雑誌テレビではお目にかかれないものなので、いかに自分が物を考えていないか、はっと気づかされるはずです。ちなみに本書では、『彼らは考えるくらいなら死を選ぶ』なる指摘もあります。
ところで、わたしは、前版の『バフェットからの手紙』も読んでましたし、Webサイトにアップされている「Warren Buffett's Letters to Berkshire Shareholders」も読んでいましたが、それでも、新版の本書を、冊子という形で再び読めたのは楽しみでした。
改めて第3版を読んでみて、バフェットのずば抜けた頭のよさを指摘せざるを得ません。言い換えれば、「頭のいい人とはこういう人」だなと、つくづくと思うのです。
本書には、会計用語や経営用語がたくさんでてきますが、噛み砕かれた説明とユーモアあふれるたとえ話に、これまでわかっていたものはさらに深く理解でき、一方、もやがかかってあまりわかってなかったことがすっと理解に及びます。
わたしの場合は「キャッシュフロー」でした。一時、大ブームだったキャッシュフローを一通り知っていましたが、バフェットの「ある種の不動産業者や当初は多額の投資を必要とし、その後は追加投資がほとんどいらないような企業を見るには、簡便で便利な方法であるかもしれません。」という記述に接して、ああ、やっぱりキャッシュフローってそんなに重要な「定規」じゃないよなーと、長年のもやもやが晴れたのでした。
本書は、「投資」や「会計」や「経営」という非常にわかりにくい世界を、ずば抜けた頭の持ち主が解説するものでもあります。これらのことがあまりわからない人こそ、本書を読むべきです。がんばれば高校生にも読めます。
株式投資を始めて日の浅い人は、第4章「普通株」に編まれた「摩擦コスト」から読むといいでしょう。すばらしく噛み砕かれたたとえ話・ゴットロック一族のお話は、他人事ではありません。
第7章「会計上のごまかし」は、投資をする上で必読です。悪事が満天下で行われていて、しばらくはお茶を濁したような解説や説明が流布され、問題が大きくなって法規制がされるという「よくある」パターンが繰り返されるのが投資という世界です。本書ではストックオプションについてページが多く割かれています。“こういうこと”だったのです。
本書『バフェットからの手紙 [第3版]』も、名著であると言わざるを得ません。本書で経営や会計や投資の本の、何十冊分の価値があります。言い換えれば、本書を熟読すれば、何十冊分の本を読まずに済む次第で、terrible reasonableな人にオススメできるものです。
ちなみに、文字や漢字でいっぱいの投資の本であるのに、「笑える」のも本書の特色の1つです。わたしは、「台本は投資銀行が用意してくれます」とか「音楽隊がパーティーに加われば、しばらくの間はそれらしくなるものです」の一文には大笑いしました。書き切れないほどの、ユーモア溢れる当てこすりやたとえ話に、読むのに時間を忘れました。
もちろん、有意義な格言もたくさんあります。「グレアムいわく、短期的に見るとマーケットは票数計算機だが、長期的に見ると体重計だ」といった当を得た表現に、納得が深まっていく心地よさを味わうことでしょう。
投資に携わる人が、良書中の良書たる本書を手にしたのは幸運だと思います。きっと多くの損失を本書で免れることができるでしょう。