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老荘に学ぶリラックス投資術――安心して長生きするために

切り口はちょっと面白いが説明不足、異論も

 投資と老子、荘子の思想を対比させながらあるべき投資スタイルについて述べた一 冊。ゆったりとして行間を取った編集で読みやすく、見やすい。

 この切り口は斬新であり、ちょっと面白い。また、著者の言う「リラックス投資」 の発想は小非常に重要だと思う。

 利益をあげるための投資で強いストレスや不快感、不安感を感じるようなことに なってはつまらない。無論、思惑通りにマーケットが動かないことはままあるもの で、値動きのある金融商品に投資するのであれば、損失が出たり、不快感が強まった りすることは避けがたい。しかし、それが実生活に相当の悪影響を及ぼしたり、不安 に苛まれるようなことは避けたいもの。

 ただ、そのためのアプローチはアセットアロケーションを考えた上でのインデック スファンドなどコストの安い金融商品を組み合わせた長期投資ということだけでいい のか。そけだけで「リラックス投資」ができ、着実な資産運用ができるのかといえば 疑問である。

 単に長期分散投資をしているだけでは、長期に市場が低迷した場合は、単に損失が 嵩むだけという場合も充分にありえることへの留意が必要である。

 マーケットが大きく下落しお先真っ暗的な状況の中、買いにくいところを信念を もってしっかり買っていくようなスタンスを取れないと、利益を伸ばすことは難し い。最近読んだ「テンプルトン卿の流儀 伝説的バーゲンハンターの市場攻略戦略」 ではこうした視点での記述が非常に多く繰り返し述べられているのに対して、本書は 抽象的な観念論的記述が多い反面、こうした点についての記述は、まったくないわけ ではないが、弱い。

 逆に、順張り的なスタンスで利益をめざす場合は、思惑と逆に動いた場合に損失を 限定するための逆指値的な売買も重要となろう。とりわけ、特定の銘柄や市場で大き なポジションを取っているような場合はその重要性は増す。

 いずれにしろ、自らの精神面のコントロールも含めた投資手法を身につけることが 重要になり、そのために個々に合った投資手法を確立することが必要になる。

   また、インデックスファンドなどは市場平均並みの成果を得るためには有効な商品 ではあるが、個人投資家でも個別銘柄を組み合わせたポートフォリオで市場平均並み でかつ市場平均よりもリスクの低いポートフォリオを構築することはそんなに難しく もない。こうした指摘少なく、投信を利用した市場平均並みの成績をあげる方を重視 している印象があった。

 さらには、楽しみとしての投資についてふれられていない点も残念である。長期で 運用するポートフォリオを保有しながら、自分の判断で小さなポジジョンでの個別銘 柄の売買を行うことは楽しいし、個別銘柄の選択についてあれこれ考えてみることも 楽しい。それは人生において様々な視野を広げることにもつながるし、単に資産の着 実な運用ということだけでない、投資を行うことの大きなメリット、意味となりうる ものである。

 部分だけをとりあげて恐縮だが、本書の中で「公開された情報にはほとんど価値が ない」という記述がある。ところが、この公開された情報についての理解、判断には 様々なものがあるため、それを正しく理解することができれば、非常に価値の高い情 報となる可能性は充分にあるとも考えられる(例えば有価証券報告書の読みこなしな ど)。

 そもそも、「マーケットを壮大な「金融市場のタオ」としてとらえる」という著者 の視点は適切なのかという疑問を読後に感じた。マーケットは経済的合理性と人間の 様々な欲求や欲望など、様々なものが混沌となった、人の経済活動全体の鏡ともいう べきものではないか。そうであるとすればこれは、著者が言うタオの解釈(「われわ れが存在している現象界ができる前からあった自然法というか、時空を超越したエネ ルギーのようなもの」)とはまったく異なり、むしろ相容れないものだろう。

 つまり、本書は、よくあるご都合主義のテクニカル「分析」と同様に、あらかじめ 主張や結論は決まっており、それに合うような資料をあとから解釈して持ってくるよ うな形になっているのではないか。

 最後に、よくある年代別、世代別のポートフォリオ例の円グラフなどが示されてい ることころがあるの。これについては、記述の趣旨はわからなくもないのだが、個々 の投資スタンス、投資目標、資金量等々によって、適切なポートフォリオのスタイル は大きく異なるものであり、一律に世代別に規定できるようなものではないことを指 摘しておく。

 我々が老荘のような境地に至るのはまず無理である。長期投資やアセットアロケー ションの視点は重視しながらも、それなりに悩んだり落胆したりしながらマーケット と付き合っていくことが「人間らしい」と思う。

 切り口の斬新さは感じ、著者の基本的な主張には理解できる部分はあるものの、説 明不足と異論も感じた一冊。

ふしみん、40代、公務員


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