11月7日、アメリカの自動車大手GM(ゼネラル・モーターズ)は、7−9月
期の最終赤字が日本円で4兆5千億円になったことを発表しました。これがき
っかけとなり、7日のアメリカ株式市場は大きく下落、その余波は11月8日の
日本市場やアジアの各株式市場にも波及しました。
GMが大赤字となった一番の原因が、「繰延税金資産(くりのべぜいきんしさ
ん)」の取り崩しによるものです。実は、この「繰延税金資産」が、企業の赤
字決算を増幅させる主犯格なのです。
繰延税金資産を正確に説明しようとしますと、非常に長く、かつ難解な文章に
なってしまいますのでここでは割愛させていただきますが、簡単に言えば、
「将来支払うべき税金を現時点で前払いしている金額」を意味します。それだ
け将来支払うべき税金が少なく済みますので、これを資産として認めているの
です。そして、繰延税金資産を資産として計上すると同時に、利益が同額だけ
増加します。利益が増加するということは、純資産(株主資本)も増加します。
さて、この「繰延税金資産」、実は資産といっても、その資産性は非常に心も
とないものなのです。
繰延税金資産として計上されている金額は、すでに税金を前払いしているため
に、将来支払う税金が少なくなると見込まれる金額です。ところが、将来支払
う税金が少なくなるという恩恵を企業が受けるためには、繰延税金資産に計上
されている金額に見合っただけの税務上の所得(=税金計算上の利益)を将来
得ることが必要なのです。
いくら将来の税金を減らす効果があるといっても、それは実際に、将来十分な
所得をあげて税金が生じないと意味がありません。仮に将来赤字でそもそも税
金が発生しないとなれば、「税金を減らす」こと自体が不可能になってしまい
ます。そうなれば、繰延税金資産をそのまま計上している意味がなくなり、取
り崩しにより今度は利益の減少(または赤字の拡大)を招くことになるわけで
す。
先ほどもご説明したように、繰延税金資産を計上するとそれだけ利益が増加(
または赤字が減少)します。したがって、多くの企業は、多少無理してでも強
気の業績予測をたてて、「将来、支払う税金が少なくなる恩恵を受けるだけの
十分な利益を確保できる」という前提で繰延税金資産を計上しているのです。
そうすれば、見かけ上、決算を良く見せることができるからです。
しかし、業績が悪化して、その前提が崩れてしまったとしたら・・・業績の悪
化による利益の減少や赤字の発生のみならず、計上していた繰延税金資産を取
り崩すことによる費用の増加も加わり、今回のGMのように多額の赤字決算を
余儀なくされてしまいます。
日本でも、2003年にりそな銀行が繰延税金資産の取り崩しによる自己資本比率
の低下から公的資金注入を余儀なくされましたし、JALの2007年3月期決算
では544億円もの繰延税金資産取り崩しの影響で、従来の30億円の黒字予測が一
転して162億円の最終赤字になってしまいました。
また、いま話題のニチアスも、繰延税金資産の計上額の見直しなどに時間がか
かるために、11月12日に予定していた決算発表を11月下旬に延期することにな
りました。
もし、業績が低調で、利益もそれほどあがっていないにも関わらず、多額の繰
延税金資産が計上されている企業を見つけたとしたら要注意です。その企業の
業績がひとたび急速に悪化すれば、繰延税金資産の取り崩しにより大赤字の決
算となる可能性が高いでしょう。
繰延税金資産は、まさに、企業の「業績悪化」を引き金とした時限爆弾なのです。