上場企業A社とB社があり、どちらも2008年3月期の予想1株当たり当期純利
益の額は同じです。本日のA社のPERは10倍、B社のPERは30倍です。
さて、A社とB社、どちらの株価が割安でしょうか?
初心者・初級者向けの投資の教科書では、正解は「A社が割安」となっていま
す。でも、それは正しくありません。もしかしたら「B社の方が断然割安」か
も知れないのです。
筆者の感覚からすると、利益が毎年ほぼ一定で安定的な会社のPERは10倍程
度に落ち着くことが多いようです。つまり、将来の利益変動がほとんどない場
合は、投資資金と同額の利益を獲得するのにかかる期間は10年程度が適当だ、
と投資家は思っているのです。
そこで、「投資家が、投資資金と同額の利益を獲得するために許容する期間は
10年」という仮定を設けます。(なお、この仮定及び以下の記述は、PERの
本質を理解いただくためのもので、理論的には異なる部分もあることをご了承
ください)
一般的にPERの「適正値」は20倍といわれますが、これはどのような意味を
持っているのでしょうか。今期の1株あたり予想利益が100円であるD社、E社
を例にとって考えてみます。
D社の株価は1,000円、E社は2,000円です。よって、D社のPERは10倍、E
社のPERは20倍となります。そして、D社は利益が毎年ほぼ一定で安定的な
会社とします。
例えば、PER10倍で、利益が安定的であるD社に1,000円投資すると、毎年
利益が100円ずつ発生し、10年で100×10=1000円と、投資資金と同額の利益を
得ることができます。
同様に、PER20倍のE社に2,000円投資した場合、仮にE社がD社と同様に利
益が毎年100円であるとしたら、投資資金と同額の利益を得るのに、20年かかっ
てしまいます。
こうした状況では、PER20倍のE社の株価は、PER10倍のD社の株価より
「割高」といえます。しかし、そうではありません。E社の株価がPER20倍
まで買われる理由があるのです。それが「成長性」です。
E社の1株当たり利益が将来も100円のままであれば、投資資金と同額の利益を
得るために20年かかってしまいます。ところが、上の仮定に基づけば、投資家
は20年ではなく10年で投資資金と同額の利益を得ることを要求していることに
なります。
E社が1株当たり2,000円の利益を10年間で獲得するためには、毎年約15%の利
益成長を続けることが必要となります。裏を返せば、PER20倍まで買われて
いるE社に対して、投資家は、毎年15%の利益成長を見込んでいるのです。こ
れが、「PER=20倍」が意味するものです。
将来の利益成長が特に期待される銘柄の中には、PERが100倍、200倍といっ
たものもあります。でも、株価は割高とは決して言い切れません。
現在の予想1株当たり利益100円のF社の株価が20,000円とすれば、PERは
200倍です。でも、F社は毎年100%の利益成長を10年間は見込める、としたら
どうでしょうか。1株当たり20,000円の利益はわずか8年弱で得ることができ
るばかりか、10年間の予想利益合計は100,000円を超え、現在の株価はとても
割安、という評価になるのです。
株価やPERは、何も当期の利益予測だけで算定されるのではありません。仮
定で挙げたような10年後まで、というのは多少言い過ぎとしても、株価は、2
年後、3年後、ときにはさらに先の利益予測までも見込んで形成されているの
です。
ですから、単純に、複数の会社のPERを比較して、PERが低い方が割安、
高い方が割高・・・などという議論は、全くもってナンセンスです。
重要なのは、その会社の将来の利益の見通しです。PER10倍の会社でも、将
来の利益が減少傾向と予測されれば、株価は決して割安とはいえませんし、将
来、利益が倍々ゲームで伸びる見込みが高い会社のPERが100倍であれば、
株価は非常に割安なのです。
いうなれば、PERは、企業の将来の利益予測の「市場コンセンサス」です。
PERが低い会社は、決して「割安」なのではなく、投資家がその会社の利益
が今後減少傾向にある、と予測しているから株価が安値のまま放置されている
に過ぎないのです。
PERが低い会社が割安となりうるのは、市場コンセンサスよりも実際の業績
が好調に推移した場合です。とはいっても、将来の業績を正確に予測するのは
現実には不可能です。
実践的には、例えば株式市場がパニック状態になって、好調な業績が今後も見
込まれる企業の株価までも急落してPERが大きく低下した場合などが、買い
のチャンスとなります。あとは、市場に過小評価されている、と自らが思う銘
柄にとりあえず投資してみて、株価の動きが悪ければ撤退する、この繰り返し
をする他ないでしょう。なぜなら、今の時点でのPER、ひいては株価が割安
だったかどうかは、後にならないと分からないのですから。
少なくとも、「PERが低いから割安」、「PERが高いほど割高」と単純に
は言えないのだ、ということだけは覚えておいてください。