本書は、私がまだ経済に何の縁も無かった美大生の頃に感銘を受けたオランダ・ジャーナリズム賞受賞者による経済書です。本書は私に経済への興味を喚起させ、大学で再び学びたいという思いを強めるきっかけをもたらせてくれました。
内容は、グローバリゼーション(特に金融の地球規模化)をアメリカの政治的ミッ
ションだと前提としたうえで、ここ十数年の世界経済の変化を描いたものです。 初
読当時、経済に関する知見に乏しかった私が特に興味を惹かれたのが、グローバリ
ゼーションにより、ホットマネー(流動的な国際投機資金)が世界を駆け巡り、その
中での莫大な為替取引が結果的にアジア金融危機を引き起こし、そして危機後のアジ
アにおける経済的混乱が、多くの貧困を生み出したという部分でした。
これを読んでいるときに、私は日本のバブルと失われた十年がフラッシュバックし
ました。それがバブルだという認識すらされてなかった頃、私は小学生でした。その
頃に、父が株と為替で利益が得られることを教えてくれ、そんな事で儲かるのは面白
いと考えた私は(実際に父は売買をしていました。)毎日のように株価と為替の値段
をチェックしていたことを覚えています。(為替の講義は十歳の私には理解できずに
泣き出しました。(笑))中学生になる前には、バブルがはじけて日本経済は不景気
に入り、私が成人する頃には父の事業仲間の多くは姿を消し、そして父もまた家業を
自主廃業するに至りました。そこで初めてデフレの恐ろしさとは、消費者物価の低下
ではなく資産価値の低下にあることに気が付いたのです。
金融危機後のアジアの貧苦、バブル崩壊後の日本の不良債権問題、どちらも最終的
には個人に苦しみをもたらしたことには違いがありません。それらが通貨・金融政策
におけるミスを原因とするものであるならば、それを避け得る手段も見出せるのでは
ないのかと私は考えました。そして、その思いが私を大学への再進学へと導いたので
す。
近年では不景気の為か、大学の経済学部進学への不人気が高まっているそうです。
しかし、私があえて経済学を学ぼうとするのは、そこに解決の糸口があると信じてい
るからです。本書の247ページに「経済とは基本的な生存レベルを超えると、快適
で、生きがいのある生活をもたらしてくれる。」とあります。その経済を学ぶ重要性
を私に認識させてくれた、読みやすい文章で書かれた一冊です。