アメリカの次期大統領に選ばれたバラク・オバマ氏は環境問題を最優先課題として取り組むという。政権移行チームの陣容を見ても、その意気込みが感じられる。アジア外交担当チームが20名であるのに対し、環境対策チームは200名という力の入れようだ。その中心にいるのが『不都合な真実』で地球温暖化に警鐘を鳴らし、ノーベル平和賞を受賞したアル・ゴア元副大統領に他ならない。
今や環境問題は政治課題であるに止まらず、排出権取引に代表されるごとくニュービジネスの温床と化している。代替エネルギー開発にはマイクロソフトやグーグルも出資するようになった。ビル・ゲイツ曰く「2020年までには環境や人体に優しいマネーが登場する。病原菌をばらまくような紙幣はなくなるだろう。いや、なくさなければならない」。アメリカが躍起となる環境政策の舞台裏にはさまざまな金儲けの仕組みが埋め込まれようとしている。
バイオエタノールの場合もそうである。アメリカの穀物自給率は100%を超えている。余剰分が食糧以外のエネルギー資源として高く売れれば、アメリカの生産者は2重、3重に利益を拡大できる。食糧価格が上がっても、下がっても、アメリカの農家が困らないように共和党も民主党も選挙対策の一環として農業と環境ビジネスの融合を図っているわけだ。このメカニズムを日本のメディアは見逃しがちであるが、本書では徹底的に議論している。
環境はあくまで隠れ蓑に過ぎず、ホンネは金儲け。これこそアメリカ式マネーゲームの真髄といえよう。リーマン・ブラザーズの破綻によってウォールストリートの金融ビジネスモデルは信用を失った。しかし、マネーゲームの戦士たちは新たな戦場に活路を見出そうとしている。要は、折からのオバマ旋風を巧みに利用しようというわけだ。
オバマ新大統領の掲げる「チェンジ(変革)」も、実は環境ビジネスに新たなチャンスを与えようとするメッセージなのではないか。言い換えれば、アメリカの投資ファンドが再びパワーを取り戻せるように、ゲームのルールをチェンジしようということ。日本の環境関連企業やその技術を買い漁るアメリカのファンドの動きを知り、彼らの半歩先を行く視点を得るには最適の指南書といえるだろう。