周知の通り、著者の大前研一氏は、経営コンサルタントとしてだけではなく、政治経済に関する超一流の論客としても有名で、これまでも独自の切り口で数々の新知見を提供してきました。本書では、「心理経済学」というニューフロンティアに私たちを導いてくれます。
日本では、ついこの間まで、景気拡大期間が「いざなぎ景気」を超えたと言われながら、一般国民に暮らしが豊かになったという実感は少しもありませんでした。にもかかわらず、国民はせっせと溜め込んだ1500兆円もの個人金融資産の大半を超低金利の預金に長く塩漬けにして、ほとんど活かそうとしないという摩訶不思議な現実が続いています。
本書では、そのような日本の特異な現実を招いた背景を豊富な資料によって示し、この巨大な個人金融資産を目覚めさせ、活きたお金として市場に流れ込ませるためのポイントが「日本人の心理」にあると指摘されています。つまり、経済の活性化の要諦を、政府や企業よりも、大衆の「心理」に求めているのです。
そうした心理を中核に据えた経済学を大前氏は、「心理経済学」と呼び、ケインジアンやマネタリストらが提唱してきた既存の経済学とは一線を画する新たな概念として提示しているのです。
昨今のサブプライム問題を起点とする金融危機を契機として、私たち日本人の未来を悲観視する人が非常に多いのですが、本書では、「心理」を理解し、改善すれば、凋落の気配が漂う日本経済にも、立て直す可能性が十分にあると指摘されています。
また、日本人が資産運用の勉強をして相応の利回りが得られるようになれば、さらに資産運用が活発化し、やがては日本が世界の金融市場でリーダーシップをとれるという可能性も示唆されています。
いまや投資の世界も、かなり「心理」によって動いています。本書を読むと、上記の問題だけではなく、「ジェットコースター相場がなぜ起こるのか」、「目に見えないサイバー取り付けがなぜ恐ろしい結果をもたらすのか」といった最近の問題の謎解きにもきっと役立つことでしょう。