本書は、発行されてから既に30年以上が経過した古典であるが、いまでもシステム科学の分野において必読の書とされている。もちろん、投資やトレードにおいてシステムアプローチを採ろうとする者にとっても、それは同様である。オペレーションズ・リサーチに代表されるハードシステム系の方法論が、現実の社会的問題の多くを解決できないことが明らかになった20世紀後半において、複雑な次元を持つ系(金融市場もそれに含まれる)を読み解く世界観や、そこでの問題解決の方法論を示した巨人の一人が、著者のチェックランドであった。
彼の提示した問題解決の方法論は、その後『ソフト・システムズ方法論(有斐閣)』に詳しくまとめられ、さまざまな分野における現実的な問題の解決に威力を発揮することになるが、投資家・トレーダーが注目すべきは、何と言っても前者のシステムを理解するための世界観の方である。
私たちがよく理解しているように、金融市場は対象に内在する普遍性がほとんど存在しない。ここでの値動きはほとんどがランダムであり、原因と結果との因果関係は希薄である。このため、一般に金融市場での売買の経験を通じて専門的知識を帰納的に学習することは極めて困難とされている。なぜなら,ルールが帰納的に学習されるためには、正しい事例と正しくない事例の両方が与えられ、かつ行為と結果に強い因果関係があることが必要であるが、金融市場にはその因果関係がほとんどないからである(仮に、帰納的に学習が出来るとしても非常に長い時間がかかる)。同じ理由で、金融市場をメカニズムとストラクチャが明らかなハードシステムとして捉えることは難しい。
では、金融市場において投資やトレードを適切におこなうためには、どのようなモノの見方をし、どのように攻略すればよいのだろうか?本書はシステム一般に関して説かれた書籍であるが、それらの問いに見事に答えている。システムアプローチを採る投資家・トレーダーだけではなく、金融市場について机上の学問ではなく現実的な知見を得たいと考える人たち一般にとって、本書は広く薦められる書籍である。さらに、ハーバート・サイモンが著した『システムの科学(パーソナルメディア)』と併せてお読みいただければ、より深い理解が得られると思う。
本書の増補改訂版:『ソフトシステム方法論の思考と実践』パンローリング、2020年6月発売、定価(本体3,800円)+税