社会に役立ち応援したくなるような企業に投資したいというのが、私のささかやかな投資ポリシー。とはいえ、儲かっている企業の前には、信念も揺らぎがち……。と、そんな私に『ファストフードが世界をくいつくす』は大きな衝撃を与えました。
この本は、米マクドナルドを中心にして、ファーストフード企業の歴史と現状を追求したルポルタージュです。米国のローリング・ストーン誌に発表され、反響を呼んだルポがもとになっており、単行本化に多くの出版社が尻込みをしたといういわくつきの書。ファーストフード・チェーンの成功譚やノウハウ本は山のようにありますが、同書はそうした光の部分ではなく、ファーストフードに代表される大量生産システムの裏側にひそむ多くの問題をえぐり出しています。たとえば分業によって誰でもできるシステムを導入して従業員の賃金を下げ、アルバイトを大量に採用し無気力な若者を増やしていること、たった一滴でプール5杯分をビーフ味に変えてしまう「天然香料」の存在、大量買い付け効果によって安く農産物の買い上げていることなど……。たとえばフライドポテトの値段1ドル50セントのうち、ジャガイモ農家の手に渡るのはわずか2セントほどに過ぎないといいます。
圧巻は、著者自らが食肉処理工場を訪れて見た食肉解体の現場。低い賃金と劣悪な環境のため離職率が高く、組合ができにくい環境の中で、ケガをすればアッサリ解雇されてしまう。こうした徹底したコストダウンと品質管理の中から生まれるハンバーガーは、著者いわく、「食品」ではなく「実体は工業製品」だそう。
ただこうした問題点も、逆に言うと"非常に優れた"ビジネス戦略という評価もできるわけで、「うまい方法を考え出すものだなあ。だからあんなに安くても儲かるんだ」と感心したのも事実。デフレの日本で、こうした激烈な価格競争が起きているのはファーストフード業界だけに限らないし、大量生産、大量消費の弊害は資本主義社会の必然という気もします。良くも悪くも、徹底した分業による均一的な「食品加工システム」やマニュアル型の「労働システム」が、その経済合理性と非人間性も含めて、他の外食産業にも大きな影響を与えていることは確かなことでしょう。
ところでこの本には興味深い発言やエピソードが数多く登場します。マクドナルドのチェーン展開をすすめた設立者のレイ・クロック氏は、自分の仕事を問われると「不動産業だ」と語ったと言います。また同氏は、子どもを味方にすれば親が一緒にやってくるマーケティング戦略をたて、ロナルド・マクドナルドという親しみの湧くマスコットを生み出し、プレイランドを併設しました。そのレイ・クロック氏とディズニー創始者のウォルトディズニー氏は同じ軍隊で若い頃から面識があったことなど、興味深いエピソードがちりばめられています。
なぜマクドナルドがファーストフードの覇者となり勝ち続けることができたのか、その陰の部分をえぐった良質なノンフィクションです。ぜひご一読を。
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