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矢口新 生き残りのディーリング

生き残りのディーリング

矢口新
東洋経済新報社
四六判 197頁 1990年10月発売
本体 1,505円  税込 1,655円  国内送料無料です。
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本書は『生き残りのディーリング 決定版』として全面改訂しました。

相場に関する情報が氾濫している。株式市場、債券市場、為替市場など各市場の動向が、日々のニュースで解説される。
証券会社の店頭では、背広姿の勤め人に限らず、一見して主婦とわかる人々が掲示板の前に人だかりをつくって、株価の動向に一喜一憂している。寿司屋では寿司屋の親父が、クラブに行けばホステスが、こちらが証券マンだとわかると何らかの意見を求めてくる。私たちの日常生活に、かくも身近になった相場なのだが、その実体は深くベールに包まれたままかのように思える。不可解なのである。

相場とは、一体何なのだろう。価格変動のメカニズムとは、相場のプロとはどういう人たちなのか。こういった素朴な疑問を抱く人は多いが、一方それに対する満足な答えがなかなか得られないのも現状である。
本書ではそういった疑問に対する答えに加えて、プロとしての相場の取組み方、ディールのやり方、儲け方、そして、相場観の組立て方にも言及した。

ディーリングは芸術の領域だという人がいる。
複雑な計算、コンピューターを駆使し、必要なところにはヘッジを施してリスクを絞り込んでいっても、残った最後のリスクをどのようにとるかを判断するのはディーラーであり、そこは経験、勘などが支配する芸術の領域だという。
では、人が芸術と呼ぶものの裏側には何があるのか。長い間の修練によって磨きあげられたしっかりした技術の裏付けがある。そして技術にコツがあるように、ディーリングにも一種のコツがある。そういったコツとは、言葉にすれば何でもないことのようなのだが、なかなか誰も教えてはくれない。本書ではそういったコツについても言及している。

ディーラーとしての私の根っこは日短エーピーでの為替ブローカー時代にさかのぼる。一般にブローカーはポジションを持たないとされている。確かに積極的にポジションをとり相場をはってゆくことはないが、スタッフと呼ばれる一種の事故によって無理矢理にポジションを持たされることは一日に何度となくある。スタッフとは、例えば一つの売り物に対して、三人の買い手が殺到した時に起こる。この時ブローカーは三人の買い手にそれぞれ売り物を渡すことが少なくない。売り物はもともと一つなので、後の二つはブローカーのリスクでポジションをとらされたことになる。このポジションはその性質上持った時点では常にアゲインストである。機械的に損切っていては収益に大きく影響を与えるので、いかに損を少なくするかの後向きのディーリングを行わざるを得ない。辛い仕事ではあったが、相場を見る厳しい目が培われたと信じている。

野村證券時代は、為替のディーリングに加えて、米国財務省証券、ヤンキー債、米国企業の社債のディーリングをやらせていただいた。ここでは積極的に利益を狙ってゆくディーリングと、マーケットメイキングとを覚えた。一時、米国株のセールスも経験した。

グリニッジ・キャピタル社では在ニューヨークの日系の生命保険会社、信託銀行を担当して、米国債のセールスを経験した。アービトラージ、オプションについてはここで学ばせてもらった。

私が経験したディーリングは商品勘定が中心で、顧客の資金を預って運用するポートフォリオのマネージングとは趣きを異にしている。しかし、どちらにも変動商品を扱って収益を追求してゆくという根本的な共通点が存在する。
ポートフォリオ・マネジャーから見れば、不可解に映ることの多い日々の相場の値動きも、ディーラーの行動様式を理解していれば、意外に単純なものだと気づくことも多いと思う。ポートフォリオ・マネジャーの方々にディーラーの視点から、何らかの助言ができたらと考えている。

会社員としての仕事のかたわらなので、本書を仕上げるのに一九八七年の暮から一九九○年の初頭まで二年以上の歳月を費やした。二年の間には当然金利も為替も変動するため、書いていた当時とは価格水準が違ってきている。しかし、本書の内容にはいささかの影響もないと思われるので、あえて変更はしていない。

本書の仕上げの段階で日本興業銀行の長谷毅氏に貴重な助言をいただいた。資料の作成には米国ムーディーズ社の谷田部えり子、野村證券の吉岡克祥、田村奈文の諸氏に協力していただいた。東洋経済新報社の園田清治氏とは何度も国際電話で打ち合せするなど、一方ならぬお世話になった。これらの方々の協力なしには本書も出版の機会を得ることがなかったかもしれない。ここに改めて感謝の意を表したい。
一九九○年 盛夏
矢口 新

目次

はしがき
第I章 なぜ、相場は動くのか
1、何が相場を動かすか
2、トレンドラインの科学 I
ーその意味するものー
3、トレンドラインの科学 II
ー新しいアプローチー
4、チャートの意味
5、相場の基本は日計り
6、三勝七敗のディーリング
7、損切り論
8、買い乗せ
9、押し目買い、戻り売り
10、順バリか逆バリか
11、Buy the rumor, sell the news
12、値ごろ感
13、情報の意味
14、材料(経済指標)
15、相対的価値
16、Always long on the top
17、今日の高値は明日の安値
第II章 何に相場をはるのか

1、何に相場をはるのか
2、不条理への挑戦
ー合理性の追求ー
3、ゼロというポジション
4、右側の崖
5、冷し玉、政策買い
6、マーケットセンチメント
ーOdd Lot の空売りー
7、ギャンブル相場
8、敵を知り、己を知る
9、ポジションを読む
10、しのぎ方
11、ヘッジについて I
ーリスクの付け替えー
12、ヘッジについて II
ー分散投資ー
13、ヘッジについて III
ースプレッド運用ー
14、リスク管理
15、リスクおよび期待利益
16、ハイリスク・ハイリターン
17、相場に聞け
第III章 ディーラーという仕事の魅力

1、ゼロサムゲーム
2、五○%の確率
3、Once a dealer, always a dealer
4、プロの心得
5,思惑によるトレーディングの是非
6、マーケットメイカー I
ーその役割ー
7、マーケットメイカー II
ーその対応ー
8、相場に入る
9、孤独のマウンド
第IV章 ドル・円レートを予測する

1、ドルの価値
2、ドルの特殊性
3、貿易通貨
4、有事に強いドル
5、レート予測の手がかり
6、円は二○○円を目指す
ー予測例ー

著者紹介

矢口 新
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業、日短エーピー、野村證券、米国グリニッヂ、キャピタルマーケット社、外資系証券会社を経て、スイス・ユニオン銀行 東京支店勤務
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