ヘッジファンド&リスク

投資のプロたちの『ネタ本』を盗め！日本初上陸！『上級投資家』のための基本書。世界最高峰の丸秘戦略が明かされるレラティブ・バリュー戦略、イベント・ドリブン戦略、エクイティ・ヘッジ戦略、グローバル・アロケーター。リスクの認識に基いた、最大のリターンを実現

ヘッジファンドの存在は、どこかサーキットのみでの走行を許されているレーシングカーの存在に似ている。サーキットにおいては、制限スピードや優先権といった交通規制はなく、ひたすら車の性能の限界が試される。ただし、そこでレーシングカーを運転するドライバーにはそれ相当の技量が要求されることになる。
ウィリアム・J・クレレンド（エヴァリューション・アソシエイツ名誉会長）

いまだ「投資のプロ」に乏しい日本に贈るヘッジファンドの活用法
評者 今井 澂（白鴎大学客員教授・国際エコノミスト）

冒頭に私事ながら白状すると、この本は私自身が翻訳するつもりで、ある書店を通じて著者に交渉したらすでに成約済みだったという因縁がある。代わりに同じくらい高い評価を受けている『ヘッジファンドのすべて』（ジョセフ・G・ニコラス著）を翻訳したが、残念無念、先を越されてしまった。
この本はそれぐらい、アメリカの資産運用者や年金を含めた機関投資家の間で有名な本だ。それは著者のクレレンド氏がエヴァリューション・アソシエイツ（EA）というコンサルタント会社の創設者で、EACM100指数というヘッジファンドの運用ベンチマークを作り上げた人物であること。また公的史的年金や財団、学校法人などに、リスクが低くリターンが高いポートフォリオを作るのに有益な助言をし続けてきた経歴を持つ人だからだ。
私は九四年に世界で初めてと評されたこの業界の本『日本を襲うヘッジファンド』を出版した前後から、クレレンド氏と知り合った。その後デリバティブや、ヘッジファンドを含むオルタナティブ投資という新分野の本を三冊書いたが、同氏のコメントや同氏が名誉会長をつとめるEA社の資料を使用させてもらっている。
この本がアメリカで評価が定まり、広く読まれているのは、ヘッジファンドの運用テクニックが実にやさしく解説され、運用のプロたちにも勉強できるだけではない。機関投資家を含め裕福な個人が「どんなタイプのヘッジファンドが資産運用に適しているか」「どのマネージャーを選んだらいいか」を実に親切にアドバイスしている。
その中で繰り返し著者は「ヘッジファンドは運用担当者も自分の資産を投資するので、一種の起業家と考えるべき」と述べる。やれ妖怪マネーだの何だのと罪悪視するわが国のマスコミと違って、次第に巨額になってくる金融資産をどう保全するかという視点が貫かれている。ご本人の人柄を思わせるユーモアたっぷりのエピソードが書き込まれ、読み物としても楽しい。
発表直後に最も話題となったのは、十四世紀のヴェネチアの海賊と裕福出資者たちの契約がヘッジファンドと似ているという一節だ（九一ページから九二ページをお読みください）。
海賊たちは「戦利品がなければ何の見返りも支払われない」「正当な分け前以上は何人タリとも何も受け取らない」「戦利品を盗んだ者は仲間から追放される」というルールを厳守した。また利益の一部は海賊のケガへの保障や船の修理のために保留された。ヘッジファンドのマネージャがとる成功報酬はヴェネチアの海賊と同じ、というブラックユーモアである。
少々わき道にそれた。各章の終わりに付けられた「要約と解説」は要領よくまとまっており、この本の水準の高さを示している。EACM100指数を考案した人だけに、どうしたらリスクを縮小してリターンが得られるかがトコトン追求されている。本当の意味での投資のプロにまだ乏しいわが国では、まことに貴重な一冊。

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