タイトルの「三猿」とは、「見猿、言わ猿、聞か猿」のこと。いわく、「三猿とは見猿、聞猿、言猿の三なり。眼に強変を見て、心に強変の淵に沈むことなかれ、ただ心に買い含むべし。耳に弱変を聞きて、心に弱変の淵に沈むことなかれ、ただ心に買い含むべし。強変を見聞くとも、人にか語ることなかれ、言えば人の心を迷わす。これ三猿の秘密なり、金泉録とは、この書の名なり」。
つまり、相場が強気なのを見て、まだまだ上がると思って買い進んではいけない。ひたすら売りのチャンスを狙うべきである。相場が弱気だと聞いて、下がると思って投げてはいけない。ひたすら買いのチャンスを狙うべきである。相場の上げ下げを見聞きしても、人に話してはいけない。言えば人の心を惑わすことになる――ということである。
単純なように見えるが、これは本間宗久と同じく、陰陽道を下敷きにした考え方である。極意というのはえてしてシンプルなものだが、だからこそ、実行は難しいといえる。
牛田権三郎は、同じく序文で「体極動きて陽を生じ、動くこと極まりて静かなり。静かにして陰を生ず。静かなること極まりてまた動く。一動一静あるに、その根となる対極陰陽は天地。万物の始まりなり。米の高下も天地陰陽のめぐるがごとく、強気の功あらわれて、はなはだ高くなり、上がる理極まれば、その中に弱気の理を含む。弱気の功あらわれて、はなはだ安くなれば、その中に強気の理を含む。万人の気弱き時は、米上がるべきの理なり。諸人気強き時は、米下がるべきの種なり。これみな天性理外の理なり。予壮年の頃より米商に心を寄せ、昼夜工夫をめぐらし、六十年来月日を送りて、ようよう米強弱の悟りを開きて、米商の定法をたて、一巻の秘書を作り、名づけて三猿金泉録という」と述べている。
この「天性理外の理」こそが、本書の肝要。詳細は本書でじっくりお読みいただきたい。
ISBN 4-7759-3019-2
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