大勢のマーケットの魔術師のなかでも、その壮絶な最期ゆえに語られることの多いジェシー・リバモア。没後70年近くになる現在でも、その投資手法や哲学はマーケットに生きる人々に多大な影響を与えている。彼を100万ドル長者にのし上げたのは、そのたぐいまれな数学的センスと卓越した相場眼、そして成功への強い信念であった。しかし、そんな彼も何度かの破産の憂き目に遭い、その都度、華麗なる大復活を遂げてきた。
本書は、彼が亡くなった1940年に彼自身の手で書かれた唯一の相場書である。14歳から相場の世界に一人で立ち向かった彼がその手法や相場観、そしてリスク管理などを余すところなく明らかにしている。これら「リバモア流相場の極意」は現代のトレーダーにとっても福音となるだろう!
現に日本においてもそれは高い評価を得ており、リバモアが相場師としてたたき上げていく様子が詳しく描かれている様は、ノンフィクションの読み物としても楽しい。 だが、後者はあくまでもルフェーブルの著作であって、細部には脚色もあろうし、何よりトレードに関する記述については、細かい機微まで再現できているか否かは不明であった。その意味では、本書はリバモア本人の手による著作であり、彼が何を意図して投機を行ったのかを、我々は正確に把握することができる。読者は本書においてリバモアのトレードに関して多くの発見をすることになろう。
一例を挙げると、『Reminiscences of a Stock Operator』を読むかぎりでは、リバモアは文字通り相場操縦者であるような印象を受けるし、そこから一歩踏み込んだ解釈をしても、彼の相場技術は、合百時代に培った経験と天性に依拠しているように読める。 しかし本書によれば、そういったとらえ方は必ずしも正しくないことがわかる。なぜならここでリバモアが述べていることは、極めてメカニカルな分析・売買手法だからである。少なくとも本書に記述された範囲においては、リバモアは彼自身を、現代の言葉で言うシステム・トレーダーであると定義しているようだ。これは驚くべきことではないか。
さて、リバモアが本書で明らかにしたアルゴリズムは、典型的なモメンタム・トレードの手法である。それは細かい点では違いはあるものの、ほぼ同時代に生きた著名な相場師であるニコラス・ダーバスが『How I Made $2,000,000 in the Stock Market』(邦題『私は株で200万ドル儲けた』)で明らかにした「ボックス売買法」とかなり類似したシステムである
両者は前者がマーケットの主導株、後者がグロース株を対象にしているという違いこそあれ、ともに、持ち合いとブレイクスルーを、定型のルールで識別するというアプローチによって、トレンドに効率よく乗っている点で共通している。
一般に知られているように、過去においても現代においても、米国のマーケットはモメンタム・ファクターの説明力が高いマーケットである。この環境下にあって、いまをさかのぼること数十年も前にこれだけ精緻なルールでもってトレードに臨んだリバモアやダーバスが、他のなんら規律・規則をもたないマーケット参加者に対して、結果として非常にうまく立ち回れたことは想像に難くない。
彼らが相場で財を成すことができたのは当然と言えるだろう。 (全文を読む)
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