■概要
大正から昭和にかけた激動の時代。いくつもの暴動や戦争、さらに関東大震災という天災までが人々の生活を襲った。
明治41年、15歳で奉公に出た種ニは、生涯の師と仰ぐ主人 山崎繁次郎のもとで、実家の借金返済という責任の上に、生来の勤勉さと体躯を生かし、米について一からを学び、めきめきと頭角を現す。修行時代の彼を動かしたのは「考え五両、働き一両」という祖父からの教え。人並み以上に努力をする彼に、主人 山繁をはじめ、終生をもって支えとなる多くの人々と出会いが訪れることになる。
大正の終わりになると、主人の他界や大震災という大打撃を経て、ついに彼は独立を決意。米相場については修行時代に多くを学び、すでに「売りのヤマタネ」としての片鱗を見せていた。売りを強みとする彼は、買い占めが嫌いだった。正米市場で育った彼には、人々にとってもっとも重要な米を買い占め、値段をつり上げて儲けることが我慢ならなかったのである。
しかし、彼が米相場で成功すればするほど、心よく思わない人々が増える。さらに軍国主義の背景が強くなり始め、米の売買もしづらくなると考えた彼は、いよいよ株式相場へと本格的に足を踏み入れる。満州事変の年、金輸出再禁止を受けた株式相場は、数年に及ぶ大暴騰を見せ、ついに「買いのヤマタネ」として大成功を収めた。
しかし、すべてがうまくいったわけではない。大きな痛手を追って金策に走ることや、不安感に押され血尿を出すこともあった。それでも相場の世界を去らなかったのは、「もともと裸ではじまったのだから、あらためて出直せばいい」という達観だったのかもしれない。
他方、横山大観をはじめ多くの画家や著名人との親交も深かった彼は、「世の中のためになること」を山種美術館を設立するなど、近代日本画を愛した人としても有名である。
本書は彼が自ら書き残した自分史の集大成である。
第一章 少年時代
生いたち/貧乏暮らし/上京/小僧の才覚/終生の師に会う/相場に踏み出す
第二章 修行時代
山繁さんの厳しい指導/甲種合格/山繁さんの死/米騒動/結婚/石井定七に売り向かう/関東大震災
第三章 独立
山崎商店の旗上げ/古米活用で大当たり/買い占め派との対決/山種の基盤を築く
第四章 兜町進出
株の世界へ/本社ビル建築/二・二六で当てる/“筆禍事件”/日活株大仕手戦/忍び寄る戦争の影
第五章 再出発
焼け跡からの出発/旭硝子事件顛末記/山種米穀を設立/動乱ブームを背景に/小豆事件/買いで凱歌
第六章 「山種」時代
“兜町は宝の山”/強盗に押し入られる/投信に踏み切る/証券恐慌/本社ビル完成
第七章 相場雑感
ムダ嫌い/別荘地分譲/妻のこと/相場の秘訣/“流れを知る”ことがコツ/相場の道に六十五年
あとがき
森生文乃/林輝太郎 パンローリング
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