「私はぶっきらぼうに見えるかもしれない。自分でもそれは分かっている。それに気が短いときもある。私はもともとせっかちなのだ。そうでない人が大勢いることが理解できない。ただ、小さいころから自分がみんなとは根本的に違う見方をしていることには気づいていた。そして、いつも自分が本物だと信じるものを売買してきた。それが、みんなから外れていても(たいていはそうだ)、たとえ、私ひとりになってもだ」――サム・ゼル
”読んでいてシビれる投資哲学に、強烈なエピソード。これはもう読むしかありません”(土井英司様)
ゼルはよく「みんなが左に行くときは、右を見ろ」と言っている。彼にとって、社会通念は基準ではない。毎年、取引を重ねるほどに、彼は群衆のノイズを排除し、できるだけたくさんの情報を集めたうえで、自らの直観を信じて行動する。彼は、自分がこのような独特な考え方ができるのは、第二次世界大戦中にユダヤ人難民として杉原千畝が発行したビザでアメリカに渡った「スギハラサバイバー」である両親の影響が大きいと語っている。
ゼルの評価を2人に聞けば、まったく違う答えが返ってくるだろう。彼が、トリビューン社の経営権を握った翌年に連邦破産法を申請したときはメディアの猛反発を食らった。しかし、その一方で彼の鋭い直観はウォール街の伝説になっており、数々のIPO(新規株式公開)を支援している。彼は、問題を抱えた資産を標的にする戦略から「墓場のダンサー」とも呼ばれているが、これまでに何千人もの雇用も創出してきた。彼の会社だけでも膨大な数の社員がいるが、彼らはその強い忠誠心から会社を辞めたり、転職を考える社員は非常に少ない。
ゼルは個性あふれる人物で、みんなの逆を行くことが多く、遠慮がなく、不遜で、いつも興味津々で、よく働く。出勤にはグレーのスーツがお決まりだった1960年代にジーンズで出勤し始め、1985年にはウォール・ストリート・ジャーナル紙に「楽しい仕事でなければやらない」と言い放った。バイクの仲間(ゼルズ・エンジェル)と世界中を回り、会社の外のデッキではアヒルを飼っている。 彼いわく、「既存のルールや社会通念にただ従うつもりはない。結局のところ、仕事がうまくいっていれば、ありのままの自分でいる自由がある」。
本書は、ゼルが強調したいことをまとめたもので、読者と彼がかかわるとビジネスの世界を巡りながら、成功談は誠実かつユーモアを交え、失敗談はその過程で学んだこと(ここが重要!)を率直に語っている。
これは次世代の革命児や起業家や投資家にとって、欠かすことのできない指針となるだろう。
まえがき――私は本気だ
第1章 あり得ない人生
第2章 怖いもの知らずのスタート
第3章 自分のルール
第4章 墓場のダンサー
第5章 地獄へ
第6章 カサンドラ
第7章 ゴッドファーザーの提案
第8章 視界ゼロ
第9章 国境はない
第10章 私の会社を支えるカルチャー(立ち読みページ)
第11章 違いを生み出す
第12章 偉大さを目指して
謝辞
私の父は、最初に杉原に日本の通過ビザを嘆願したユダヤ人代表団の一人だった。杉原は日本の外務省にビザ発給の許可を請訓するも最初は無視され、そののち拒否された。それでも、杉原は本省の命令に背いて何千人もの難民に日本へのビザを発給した。
彼の勇気と慈悲心がなければ、姉と妹と私、そして私たちの子供たちや孫たちは今日ここにいなかった。杉原ビザを手にした両親と姉は、ウラジオストクから貨物船に乗って福井県の敦賀港に着いた。三人は逃亡生活と心配と恐怖で疲れ果てていた。それでも、母の言葉を借りれば、「日本は自由社会への扉だった」。(全文を読む)
本書は米国の起業家サム・ゼルの著した自伝 “Am I Being Too Subtle? : Straight Talk From a Business Rebel” の邦訳である。著者は米国でも有数の企業家・投資家として知られており、その軸となってきたのは不動産関連のビジネスである。だが、これは単に不動産投資で財を得た人物の成功譚ではなく、リスクというものをどのように扱うべきか、そしてそのためには人や組織にどういった「文化」が必要なのかということに関する啓蒙書なのである。一般に、投資とは不確実性(リスク)に対する賭けであり、はなはだ危険なことと認識されている。多くの日本人にとっては、投資はやってもやらなくてもよいものであり、やって失敗するくらいなら、むしろ初めから一切やらないほうがよいと考える人が大多数である。しかし、著者にとっては、リスクをとらないことはせっかく自分に与えられたチャンスを無駄にし、さらには潜在的により大きなリスクをとっていることにほかならないのである。
本書にあるとおり、ゼルはユダヤ人であり、彼の両親は第二次世界大戦時に日本人外交官であった杉原千畝の発行したビザによって命を救われたスギハラサバイバーであった。ポーランドで穀物商をしていたゼルの父親はナチスの危険性をいち早く見抜き、事前に周到な準備をしたうえでギリギリのタイミングで家族と共にポーランドを脱出した。その成功は同時に大変なリスクを伴うものであったが、父親の冷静な判断と果敢な行動がゼルの一家を救ったのだ。一方で、常識や先入観にとらわれてリスクをとらなかった多数派の人々は生き残ることができなかった。文字どおりリスクの扱い方一つが生死を分けたのである。 (全文を読む)
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