この25年間、金融市場は大きく上昇しては暴落するを繰り返してきた。それはなぜなのだろうか。アメリカの株式市場が常に経済成長を上回っているのはなぜなのだろうか。企業が何かに取りつかれたように自社株買いをしているのはなぜなのだろうか。なぜトレーダーは中央銀行の発言を神の言葉のように信じ込んでしまうのだろうか。
これらの問いに対する答えは、世界中の投資家が熱狂的に受け入れてきた広く普及するトレンドのなかに見いだすことができる。そのトレンドとは、低金利でお金を借りて、安定していると思われる市場で高利回りの商品に投資することである。つまり、答えはすべて「キャリーの台頭」で説明がつくのだ。次なる金融危機からあなた自身を守ることができるように、いろいろな事象を結びつけて、事の全容を明らかにしていくのが本書の目指す画期的なところである。
本書で著者は今日の市場の仕組みと、金融危機はなぜ起こるのかを深く掘り下げることで、読者に市場に対するまったく新しい考え方を提供し、投資戦略を見直す機会を与えてくれる。市場の大暴落は景気後退が原因ではなく、むしろその逆で、「市場の大暴落が景気後退を生み出すのだ」と著者は力説する。さらに、著者はキャリー、ボラティリティの売り、レバレッジ、流動性、収益性はすべて同じ現象に収束すると述べている。長期にわたるキャリートレードのプラスのリターンが市場のボラティリティ構造と関係があるのはなぜなのか、そして中央銀行の政策がこれらのリターンを増長させてきたのはなぜなのかについても言及する。また、キャリーの台頭が社会的・政治的病理に直接結びつくのはなぜなのかについても解説する。
「金融市場と経済を決定づける力に関しては従来の考え方には誤りがある」と著者は言う。「したがって、こうした理解では次にやってくる金融危機や経済危機、そしてその影響を読み解くことはできない」と。
本書は何十年にもわたって経済学者たちを惑わせてきた謎に終止符を打つものである。本書は市場のメカニズムをより明確にし、キャリーの台頭によって私たちの知る金融システムが一変した世界で常に時代の先を行くために必要なすべてのものを提供してくれるものだ。
2024年8月の植田ショックの本質を見抜いたような箇所がいっぱいあります。
1か月弱で日経平均を1万円も下げさせたキャリートレードとはどういうものかを知りたい方はぜひ手に取ってみてください。またいつか必ず訪れるキャリートレードショックのときには参考になるでしょう。
ジェイミー・リー(Jamie Lee)
投資のグルとして知られるジェレミー・グランサムの下で環境調査とボラティリティトレードの研究に取り組んでいる。ボストンやロンドンのアセットマネジメント会社でエコノミストやアナリストとして勤務した経験を持つ。ダートマス大学で数学と英語の学士を修得。
ケビン・コールディロン(Kevin Coldiron)
カリフォルニア大学バークレー校のハース・ビジネス・スクールで金融工学の講師を務める。その前はサンフランシスコを拠点とする定量的ヘッジファンドのアルゲート・コールディロン・インベスターズ(ACI)を共同設立。ロンドンのバークレーズ・グローバル・インベスターズで専務取締役として勤務した。ロンドン・ビジネス・スクールでMBAを修得。
「本書は金融サイクルと景気循環を分析するうえで、ケインズ経済学的アプローチとマネタリスト的アプローチの両方に挑戦状を突き付けるものだ。明晰な議論とそれを裏付ける統計データとによって、著者は、流動性を生み出し、資産価値を膨張させる『キャリーバブル』と、流動性を枯渇させ資産価値を下げる『キャリークラッシュ』の直後に行われる中央銀行による損失の社会化(損失は社会全体が背負うべき)を結びつけるには、景気循環を抜本的に分析し直す必要があると説く。『キャリー』が実質的にすべての市場に普及した結果、世界の貨幣制度は進化したが、『キャリー』に敵対的な新たな貨幣制度が導入されなければ、世界の貨幣制度はデフレとハイパーインフレとの間で揺れるきわどい状況に立たされるであろう。本書は中央銀行、投資家、学者、政治家にとっても必読の書である」――ジョン・グリーンウッド(インベスコのチーフエコノミスト)
「今日の金融マトリックスの内側を見たいとは思わないか。なぜわれわれはキャピタリストの本懐からこれほど遠ざかってしまったのか。そして、その結果として当然の報いを受けなければならないわけを理解したいとは思わないか。本書は、奇怪な現実がポピュリズムという力によって暴露されるシステムの真実に目覚めさせてくれるものだ」――ヘンリー・マクシー(アセットマネジメント会社・ラッファーのCIO)
ここで特筆すべきは、原書が出版されたのは2019年で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がもたらした世界的な危機が発生する前であるにもかかわらず、危機後に金融システムが辿った軌跡がまさに本書で論じられたとおりであったということである。そして、その予測の正確さは、その示唆する結末が万人にとってけっして幸せなものではないだけに、読む者に空恐ろしい気持ちすら起こさせる。
本文中にも詳しく書かれているように、今日のキャリーレジームを支える背景には各国中央銀行の存在がある。彼らは政府から独立した存在として、各々の通貨の健全性や経済の安定・成長に対して責任を負っており、したがって本来その政策は金融システムのレジリエンス(回復力)確保に寄与するものでなくてはならないはずであった。 しかし現実には、ブラックマンデーやリーマンショックといった重大なインシデントが起こるたびに、経済的な破滅から世界を守る目的で中央銀行がとった政策そのものが、返ってより多くのリスクテイクを誘引して金融システムを脆弱にし、次なる危機を招いてきた。このままでは、際限なく拡大するキャリーレジームが内包するリスクを実体経済が支え切れなくなる時がいつか必ず来ることになる。(続きを読む)
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