現代ポーカーは「ゲーム理論的最適戦略」と「エクスプロイト戦略」の枠組みを軸に展開されている。「エクスプロイト戦略」とは簡単にいうと、相手のプレイを読んで、その弱点を突いていくもの。ただし、当たり前だが相手も同じことを行えば、裏の裏さらにその裏を読む、読みあい合戦になる。
一方、自分の戦略に主眼を置いて、プレイを最適化していくのがゲーム理論である。「両極化・凝縮レンジの構築」「アグレッシブとパッシブの両方で利益を得る」「レンジを操作して一般的なミスを回避する」「ワールドクラスの相手にも引けを取らない」。均衡や無差別などの強力なゲーム理論の概念は、ポーカーを究めるには必須である。
もし相手があなたよりもこのふたつの理論に習熟していれば、彼らの方からあなたを難しい場面へと追い込んでくるに違いない。
本書では、ポーカーでよく起きる状況を題材にして解説を行ったあと、例題、解答・解説へと進んでいく。本書を読み終えるころには、あなたはゲーム理論とエクスプロイト戦略のどちらにも慣れ親しんでいると同時に、どちらのアプローチがベストか決めるための知識も身についていることだろう。
難解な数式はなく、分かりやすく丁寧な解説でまとめられた本書は、中上級プレイヤーがさらにレベルアップするための最強の書籍となるはずだ。
ただしポーカーをはじめたばかり、またエクスプロイト理論などについてなじみのない初心者には少々イメージしづらいかもしれない。
そんな方にはまず、『エド・ミラーのエクスプロイトポーカー』『エド・ミラーの公然の秘密・頻度ベース戦略』を読んだうえで、本書に戻ってきてほしい。必ずやあなたの理解を深め、さらなる武器となるはずである。
イントロダクション なぜゲーム理論は必要か ゲーム理論的アプローチ 本書の使い方
第1章 均衡を理解する
第2章 両極化レンジと凝縮レンジ
第3章 相互レンジ |
第4章 リアルにやろうぜ! 概要と目的 シナリオ:UTG VS. BB1
第5章 エクスプロイト戦略を編み出す
第6章 複合レンジ
第7章 レイズ
第8章 すべてをまとめ上げる エクスプロイト戦略のまとめ |
本書『ポーカーとゲーム理論』はそれぞれある特定のコンセプトにスポットライトを当てるようデザインされた「シナリオ」を中心として構成されている。まずはポーカーに似ているがそれよりもずっと複雑性を抑えた疑似ゲームを題材として取り上げる。疑似ゲームは解決が比較的簡単で、一度に1つか2つのコンセプトに焦点を当てることができて、実際のポーカーのように何を優先して考えるべきか競合となるのを避けられる。シナリオが進むごとに複雑さを一段階ずつ増やしていくことで、それらすべてのコンセプト同士がどうフィットして組み合わさっているのかがよく分かるはずである。その作業を続ける中で、やがて我々は疑似ゲームのコンセプトを実際のポーカープレイ状況へと応用できるところまで登り詰めていくことになるであろう。
各シナリオの分析は、まずそのシナリオにおける最適化戦略が何かを君の方で推測するところから始まる。中には難しいものもあるので、完璧な答えを出そうとして七転八倒までする必要はない。だがある程度は時間を取って、君1人で問題について考えてから、解答と解説へと読み進めてほしい。そんな風に自分自身へとチャレンジを課すことで、学べることも記憶に残ることもより多くなるであろう。
シナリオはそれぞれが下から上へと積み重なるように構成されているので、各章で中心となるコンセプトを完全に理解した上で次の章へと進むのが大切である。概要とチャレンジ問題では学ぶべき主な事柄にスポットライトを当てるとともに、自分がどれほど理解できているかをテストできるようになっている。それぞれのシナリオに設けられている問題でおさらいをして、答えを理解しているのを確認してから次へと進むというのが、理解度チェックとして上手いやり方だろう。
ゲーム理論についてすでにそれなりの知識を持っている読者にとっては、最初の方のシナリオはとても簡単だと感じるかもしれない。解答がすでにおなじみの人さえいるかもしれない。各セクションの冒頭にある問題は取り上げる予定の題材についてどれぐらい知っているかをテストするためのものだ。もしそれに全部正解できるようであれば、 そのセクションは軽く読み流すか、なんだったら飛ばして次の セクションへと進んでもいいだろう。ただ注意して確認してほしいのは、ゲーム理論に比較的詳しい人であっても詳細な部分では間違って理解していることが多いと言うことだ。私自身も本書を執筆する中で、 出てくるコンセプトについて自分で思っていたほど理解できていなかったのに気付かされたぐらいなのだ!
各シナリオで均衡解について検討したら、エクスプロイトプレイにそれをどう応用するか考えていく。やり方としては、まず相手がどういうミスをしてくる可能性があるかを想定して、そのミスに一番上手くつけ込める方法を考えていく。つけ込み狙いでプレイしている時であっても、どのようなつけ込めるチャンスがあるかを見つけ出すための第一歩として、均衡解が何かを理解しておくことに価値があるのである。
本書のシナリオでは基本的に2人の主役プレイヤーにスポットライトを当てる。名前をイワン(Ivan)とオパール(Opal)という。インポジションにいるのは常にイワンの方で、オパールは常にアウトオブポジションにいる。他のポーカー教科書でプレイヤーをIPとOPと呼んでいるのを見たことがあるかもしれないが、これはインポジション(In Position)とアウトオブポジション(Out of Position)を意味する。ここではその頭文字を取って人の名前にすることで、読者がシナリオで起きていることを想像しやすくなるだろうというのが私の意図だ。
シナリオ内でのゲームから学んだレッスンがそのまま応用できるのは2人のプレイヤーで競われるポットのみである。実際のポーカーハンドでも、10人テーブルであろうとリバーにたどり着くころには2人だけにまで絞り込まれている場合が多いし、ゲーム理論的分析の2プレイヤーシナリオから学んだ全般的レッスンは、そのほとんどがマルチウェイ(多人数)ポットにも応用ができるし、数学的な内容が多少変わる程度である。
その通り、ここでは数学が用いられる。だがそのことに捕らわれ過ぎたり怯えたりはしないでほしい。数学的に詳細な部分が問題になることはほとんど無い。そうではなくコンセプトのレベルで何が起きているのかを理解することに専念してほしい。例えばベットサイズとブラフ頻度との関係や、あるハンドでのブラフはなぜ別のハンドでのブラフよりバリューが大きいのか、といったことだ。
本書で取り扱うシナリオは楽しく、興味深く、そして何より役に立つはずだ。中には抽象的なものもあって、それがポーカーテーブルでの実際の決断とどう関係しているのかを説明するのには大いに苦労させられた。つまるところ、君がやるべきは自分に役立つ部分を学び取ることで、後は無視してしまえばいいのだ。本書はゲーム理論そのものと同じで、君の道具箱の中にあるツールの1つに過ぎないのである。
アンドリュー・ブロコスがプロポーカープレイヤーとしてのキャリアをスタートさせたのは2004年で、シカゴ大学で哲学の学士号を得て卒業してからである。当初はスモールステークスでのプレイで家計の足しにするためで、その間に教育関係の非営利団体での仕事を探していたのだが、ほどなく、ポーカーに真剣に取り組んでその収入で自ら非営利団体を立ち上げた方が早いことに気づかされた。 その年の後半に、アンドリューはボストン・ディベート・リーグを設立し、ボランティアとしてエグゼクティブディレクターを2008年に、組織が大きくなってフルタイムのディレクターを必要とするようになるまで勤めた。
それ以降、アンドリューにとってポーカーを教えることそしてプレイすることがフルタイムの仕事となっている。現在彼はTournament Poker EdgeとRed Chip Pokerのためにポーカー教育ビデオを制作し、Two Plus Two Magazineにおいて毎月コラムを連載している。
2012年にアンドリュー・ブロコスとネイト・ネイビスはThinking Pokerポッドキャストをスタートさせた。この毎週配信されるトークショウはすぐにポーカーポッドキャストの中でもそのジャンルでの人気ナンバーワンとなった。このポッドキャストのアーカイブを聞くには、またプライベートコーチングについて知りたい方は、www.thinkingpoker.net にアクセスしてほしい。
P40 10行目
P114 14行目
P208 下から5行目
正誤表
本書に誤植・表記漏れがありました。お詫びして訂正いたします。
【誤】クリスティーナのEVは-%50となるはずである。
【正】クリスティーナのEVは-$50となるはずである。
【誤】オパールがAでのベットを増やすほど、彼女はQでのコールを増やすことでイワンをKでのコールとフォールドを無差別にして、Kでのチェックコールを増やすことでイワンのQでのチェックとベットを無差別にしなくてはならない。
【正】オパールとしてはAでのベットを増やすほど、同時にQでのベットも増やすことによって、イワンによるKでのコールとフォールドを無差別にして、またKでのチェックコールを増やすことで、イワンのQでのチェックとベットを無差別にしなくてはならない。
【誤】ビッグブラインドはチェックして、君がベットすると、彼女はコールする。
【正】ビッグブラインドはチェックして、君が$15をベットすると、彼女はコールする。
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