本書は戦争をはさんだ時代に起きたウォール街の盛衰と痛みを伴う再生を描いた劇的な年代記だ。この時代に生きた最も印象的なトレーダー、銀行家、推進者、詐欺師の人生と運命に焦点を当て、好景気にわいた1920年代の貪欲、残忍さ、見境のない高揚感、1929年の株式市場の大暴落による絶望、そしてそのあとの苦悩を生き生きと描き出している。
具体的には、大相場師のジェシー・リバモア、JFKの父親で仕手筋と有名だったジョセフ・P・ケネディ・シニア、ベンジャミン・ストロング・ニューヨーク連銀総裁、フランクリン・D・ルーズベルト大統領など当時のウォール街を彩ったそうそうたるメンバーや、のちに有罪判決を受けて刑務所に収監されるリチャード・ホイットニー・ニューヨーク証券取引所社長らの活躍や暗躍や暗闘を、映像が浮かぶように活写している。
本書の原題にも使われている「ゴルコンダ(GOLCONDA)」とは、「今ではすっかり廃墟となったが、昔はそこを通過するだけで、だれでもが金持ちになれたというインド南東部の町」のことである。富者は勢いを失い、美しい建物は廃れ果て、その輝ける栄光は失せ、二度と元には戻ることはなかった。株式に関心ある人には知識や常識として知っておくべき史実がいっぱい詰まっている! 再び、ゴルコンダが起こらないように(あるいは、ゴルコンダが起こったときに備えて)!
「1920年代の株式市場ブーム、1929年の大暴落、恐慌、そしてニューディールの台頭――。息をのむような速さで繰り広げられるドラマにはハラハラさせられっぱなしだった。本書のテーマは、貴族出身のモルガンのブローカーで、証券取引所の理事長まで務め、最終的にはシンシン刑務所に収監されたリチャード・ホイットニーの悲劇の歴史と言っても過言ではないだろう」――エドムンド・ウィルソン(ニューヨーカー誌への寄稿より)
「ギリシャ悲劇を思わせる権力者の不名誉、絶望、凋落。傲慢さがあだになった王。ホイットニーの惨めな歴史はこれまでにも語られてきた……。しかし、いったんブルックスの手にかかれば、ドラマの衝撃に新たな驚きを感じざるを得ない」――ウォール・ストリート・ジャーナル
「金持ちを愛した時代の貪欲さ、肥大化した市場に押しつぶされた多くの投機家たちの苦悩、金融緩和、彼らの欲深さと愚かさ。本書にはそのすべてが盛り込まれている」――サタデー・レビュー
序文
第1章 序章――爆破事件
第2章 「独裁政治」という名のティッカー
第3章 貴族社会
第4章 サルに近い人間たち
第5章 すべてが崩壊する
第6章 救世主現る
第7章 ぐらつく金本位制
第8章 ワシントンの試練
第9章 失墜した白馬の騎士
第10章 ホイットニーの横領
第11章 悲劇の結末
第12章 最終幕
謝辞
ところで、本書がほかのウィザードブックと異なるのは、これが技術解説書ではなく物語(ただし事実に基づく)であることで、したがって、本文はストーリーテリングの古典的なプロットにのっとって書かれている。 (つづきを読む)
■推薦者の言葉――金融関係者必読の教養書本書は、私がニューヨークの投資銀行に勤めていたとき、アメリカ人の上司から「必ず読んでおくように」と薦められた本のひとつである。本書は一九二〇年のJPモルガン本店爆破テロ事件から始まり、一九二〇年代の強気相場、一九二九年の「暗黒の木曜日」と、それに続く大恐慌、フランクリン・D・ルーズベルト大統領のニューディール政策、そして一九三八年のリチャード・ホイットニー元ニューヨーク証券取引所社長の横領有罪判決までの歴史をカバーしている。 この期間は、マネーセンターとしてニューヨークが世界に君臨することを決定付けた重要な時期と重なっている。 そこではJPモルガンとクーン・ローブの競争、相場師ジェシー・リバモアの活躍、最初のニューヨーク連銀総裁でズッシリとした存在感を持っていたベンジャミン・ストロングの人柄について、一九二〇年代の株式ブームで大衆がウォール街へ向かう様子などが描かれている。 とりわけ一九二九年夏にニューヨーク市場が天井を打ってから、崩落へと向かう過程は、まるで脱線事故の様子をスローモーションの映画で観るような臨場感があり、しかもその描写は美しく、そして哀しい。 私は一九二九年の大暴落に関するたくさんの本を読んだが、その場に居合わせたかのような迫力で大暴落を追体験できるという点において、本書の右に出るものはない。 著者、ジョン・ブルックスは、無味乾燥になりやすい金融界の出来事を、登場人物のキャラクターを的確に読者に伝え、しかも興味深いエピソードを引用することで、生き生きと再現している。 フランクリン・D・ルーズベルト大統領が取り巻きの専門家たちの意見を無視して、本能的に正しい政策を察知し、独断と偏見で次々に「あっ」と驚くことを実行してしまうあたりの記述は、コミカルですらある。 そこには、「大恐慌からどう抜け出すか?」という具体的な方法論が、ルーズベルト大統領の取った行動を通じて描かれている。 ルーズベルト大統領は社会保障制度を初めて導入することで、それまで考えられていた「政府の果たすべき役割」の概念を根本から覆した。さらに証券を発行する際のルールを定めた一九三三年証券法、そして流通市場でのルールを定めた一九三四年証券取引所法などを通じて、今日の資本市場を律するルール作りを行った。 初代の証券取引委員会の委員長にジョン・F・ケネディの実父で、仕手筋師として勇名を馳せていたジョセフ・P・ケネディ・シニアを抜擢し、証券関係者を震え上がらせたエピソードも収録されている。 このように本書には、金融関係者なら常識として知っておくべき史実の多くがぎっしりと収まっているのである。 二〇一五年五月 マーケット・ハック(Market Hack)編集長兼コンテクスチュアル・インベストメンツLLC・マネージング・ディレクター 広瀬隆雄
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想像を絶する富といった伝説的な話の結末は大体こんなものだ。一時的には栄えるが、その栄華はいつまでも続くわけではない。しかし、一つだけ例外がある。それがウォール街だ。ウォール街とは、厳密に言えばマンハッタン南部の小さなくぼ地を指すが、それは東京、ロンドンのように金融市場を指す言葉としても使われる。
ゴールコンダとは違って、ウォール街は死から復活することができる。好景気のあとには不況が訪れるが、草は車道には生えない。それは人間の精神のたまものである。人間の知恵、ダイナミズム、想像力、そして、時として、不信の自発的停止のたまものである。世代ごとに訪れる狂騒の時代には、だれもがお金を稼ぎ、金持ちにならなければ罪であるかのようにみなされる。そんなとき、投資家たちは先代が苦痛とともに学んだ重要な教訓を忘れている。彼らは、今回だけは違う、と絶対的な確信を持って言う。
ビジネス作家のなかでも指折りの一人であるジョン・ブルックスが、史上最もよく知られた金融市場のドラマの一つである一九二九年の世界大恐慌とその後遺症の雰囲気を完璧に伝えているのが本書だ。現代の読者にとっても身近な話題が満載だ。
一九二〇年代の好景気は、シリコンバレーの対極にあるデトロイトを拠点とする新しい産業の成長によるものだ。これによって、ビジネスヒーローが生まれた。彼らは大投資銀行のトップから政府高官へと上り詰めた。最も成功する投資は比較的少数の大会社への投資で、これによって新たな経済パラダイムの台頭が期待された。
一九二七年の終わりにクーリッジ大統領が言ったように、アメリカは「新たな繁栄の時代に入ろうとしていた」。投機が社会的地位を得、ウォール街の住人たちは、だれもが興味を持つテーマのインサイダーになることで大成功を収めた。すべてが崩壊する直前、アメリカにやって来たあるイギリス人ジャーナリストはこれを鋭く分析している。「アメリカ人の株式市場に対する考え方が何かを証明するとしたら、それは彼らが奇跡を信じているということだ。つまり、十分努力をすれば、素晴らしいことを起こすことができるということを彼らは信じているのである」。そして一九二九年、株式市場の大暴落が発生する。翌年、株価は若干回復したものの、そのあとおよそ二五年間再び目にすることのない水準にまで下落した。
ブルックスの話の中心的人物はリチャード・H・ホイットニーである。彼はウォール街の支配者層のトップとしてその輝かしいキャリアをスタートさせ、最終的にはシンシン刑務所に投獄された。彼の話は繰り返される金融サイクルの極端な特徴を表すものだ――ブル相場はヒーローを生みだし、過ちを覆い隠す見事な方法を持つが、そのあと奈落に転じる。
ヒーローというものはルールは自分たちには当てはまらないと思いがちだ。特に普通の人々から隔離された狭いコミュニティーで生きて仕事をしているときはなおさらだ。誘惑に駆られるのはそんなときだ。
リチャード・ホイットニーは最初から罪人だったわけではない。銀行強盗を働くなど、この気高く気難しがり屋の男をゾッとさせるだけで、そんなことは彼の脳裏にすらなかった。しかし、彼はルールを少しずつ曲げていった。株式市場が上昇すればすべてうまくいくと信じて。うまくいかなければ、さらにルールを曲げた。このことが発覚しても、彼の友人はそんなことがあるものかと事実を認めようとはしなかった。
J・P・モルガンのあるトップは、「リチャード・ホイットニーが泥棒だなんてあるはずがない。彼はひどい窮地に陥っただけだ」と言った。
私が初めて本書を読んだのは一九七〇年代だった。当時、不況が長く続き、ダウは一〇〇〇ドルをなかなか突破できず、ウォール街は債券の引き受け場所と化していた。当時、彼の本はスコット・フィッツジェラルドの小説に出てくる登場人物たちがぞろぞろ出てくるおとぎ話のように思えた。一九二〇年の爆弾の爆破、スタッツ・モーターカー・オブ・アメリカの売り崩しという驚くべき話など、ブルックスの話は今でも私の脳裏に強く焼き付けられている。
これらの話は遠い昔からの所産ではあるが、ゴールコンダのようにいつ再び起こってもおかしくない話だと私は思っている。
一九九九年に読み直したが、こういったことが再び起こるのかどうか。私には分からない。
リチャード・ランバート(フィナンシャル・タイムズ紙)
■序文
「今や廃墟と化したゴールコンダは、かつてはそこを通過した者はだれでも金持ちになれるという言い伝えのあるインド南東部の町だった」。富者は勢力を失い、美しい建物は廃れ、その輝ける栄光は消え、二度と復興することはなかった。読者のご意見
臨場感があり、すごく読み応えがありました。とても面白いです。
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