第一部 鈴木一之 | 第三部 岩本祐介 | 第五部 斉藤正章 | 第六部 ジョー・ディナポリ
年間トータルリターンを高める「ダウの犬投資法」とは?
それは「何を買うか」という決断と、「それをいつ買うか」という決断である。もちろん「何も買わない」という決定もあるのだが、それではいつまでたっても株式市場の上昇トレンドには参加することはできない。したがって投資家は常にこの2つの決定を下すことによって株式投資に臨まなければならないことになっている。 証券会社に勤務していた頃を含め、株式セミナーの講師を勤めるようになって10年以上が経った。涙あり笑いありの10年だったが、この間、私のつたないセミナーにご参加いただいた方々からは数え切れないほどの質問をいただいた。 山ほど質問を受けると、時々同じような種類のものにぶつかる。中でもけっこうな数にのぼるのが、「株の売買は先物を通じてするべきでしょうか、それとも個別銘柄を売買するべきでしょうか」というものである。 10年もやっていると生活の知恵として、頻繁にお目にかかる質問にはあらかじめ定型的な答えを用意するようになってくる。この質問に対する私の答えはあらかじめ決まっていて、一言で言うならば「単品商品はむずかしいですよ」となる。 単品商品、つまり株式の場合なら日経225先物やオプションのことであり、加えてFXや商品先物も同じ種類に属する。これら「単品商品」の世界は、銘柄のバリエーション(選択余地)がたくさん存在する現物株、すなわち「複数商品」を売買するよりも、そこで求められる相場遊泳技術のレベルが高いように思う。 現在の東証1部には1700銘柄が上昇している。東証2部は400銘柄、ジャスダックには900銘柄。限られた投資資金の中で、この銘柄群の中からベストな投資対象をひとつ、あるいは二つ、三つと選び出すのはかなりの労力を要する。神経を使う。 株式投資を始められたばかりの方、あるいはこれから始めようとしている方は、選び出さなければならない銘柄候補の母集団がたくさん存在する現物株投資の方が、売買対象が限られている日経225先物(要するに単品商品)の方が手がけやすいように映る(らしい)。 しかしそれは間違いである。 相場は売買対象が少ないほど、つまり単品商品の世界に近づくほど、相場としてのむずかしさが増してくる。 理由はいくつか考えられるが、ひとつには単品商品の性格が強いほど、数多くの市場参加者の思惑がその対象に向けて凝縮されるためである。ごく限られた売買対象めがけて、たくさんの人の欲望がぶつかりあい煮詰まってくる。売りと買いの意思決定がごちゃまぜに入り組んで、混沌となってようやくその場の値段が決定される。選択肢がほかにないだけに思いもよらないところから売り買いの意思決定要素が紛れ込んでくるのである。次第に世の中のありとあらゆる事象が価格決定に投影されるようになる。 これが株式市場のような個別銘柄、複数商品の世界になると幾分か事情が異なる。 銘柄の数が多い分だけ人々の思惑、注意が分散している。そうなると他の人が気づいていない市場の隙間を狙うことが可能であったりする。ある銘柄の価格決定に重大な影響を及ぼす出来事が起こったとしても(たとえば円高、原油高騰)、それは別の銘柄にはさほど影響のない事柄であったりして、そうなると市場の裏をかいたりすることが(比較的)容易にもなる。情報の取捨選択が可能な世界であるのだ。 複数商品の世界には、売買対象となりうる銘柄数の多さから「選択のむずかしさ」という側面はついてまわるにしても、単品商品の世界と比較すると、市場参加者に要求される意思決定の速さ、カバーすべき視野の広さ、競合相手のレベルの高さ、という点ではずいぶんとのんびりした世界であるように私は感じる。 単品商品と複数商品。同じ相場の世界ではあるが、ふたつの世界はずいぶんと異なったものだと思う。どちらがよりむずかしい世界であるか、という比較がふさわしくないのであれば、複数商品のむずかしさの方が単品商品のそれよりも、より制御しやすいのではないかと考える次第である。 毎年1月にパンローリングが主催する「投資戦略フェア2009」に今年もお声をかけていただいた。誠に光栄の至りである。今年は2008年夏に翻訳監修した「ダウの犬投資法」について詳しくお話しする予定である。 この本の内容をごく簡単に述べれば次のようになる。 個別銘柄投資(すなわち複数商品)の世界で、銘柄の選択にほとんど悩まない。しかも売買タイミングでも悩まない。それでいて毎年高いパフォーマンスをあげる このようになる。こんな魔法のような投資法が本当に存在するのだろうか。 「ダウの犬投資法」が高パフォーマンスをあげ続ける最大のポイントは、トータルリターンという考え方にあり、その骨子は配当利回りである。 配当利回りの高い銘柄に集中的に投資することが、投資家の年間トータルリターンをいかに高めることになるのか。「投資戦略フェア2009」ではこのあたりをじっくりとお話しできればと考えている次第である。 |
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